カテゴリー: 経営環境

えっ!!JTBが中小企業に~税額の軽減がねらい?~

3月31日で、従業員数約2.7万人を擁する旅行会社最大手のJTBが中小企業になるということが話題になっています。資本金を現在の23.4億円から1億円に減資することになりました。既に、株主総会による決議がされています。その背景とねらいについて考えて見ます。

コロナ禍で旅行需要が激減して、業績が急速に悪化しました。前年5月の旅行取扱高(売上高)は、前年同月比で96%の減少という信じられない程の落ち込みでした。上半期(4~9月)の赤字は781億円になり、利益剰余金(いわゆる内部留保金額)は、9月末までで799億円と半年でほぼ半減しました。21年3月通期では過去最大の1,000億円の経常赤字を予想しています。緊急事態宣言が首都圏で再延長されるなかの外出自粛や東京オリンピック・パラリンピックでの海外の観客者の入国禁止措置で、旅行事業者の収益改善の兆しは一向に見えません。

そうした状況でJTBが考えたのは資本金を1億円にすることで、税制上は中小企業にして税による資金の流失を押さえることでした。確かに資本金が1億円に以下の企業は税制上の優遇策があります。

具体的には、最大の節税効果は法人事業税(都道府県民税)です。資本金が1億円を超えると事業税が外形標準課税といって、給与・支払利子・地代などの付加価値といわれるものに一定の割合で課税がされます。JTBの場合、従業員などが多いため事業税の金額は多額になります。これに比べ資本金が1億円以下の場合には、赤字企業には法人事業税は課税されません。これにより、多額の資金流失を防ぐことができます。

さらに、中小企業に該当すれば法人が赤字になればその欠損金を次期以降の黒字と通算してくれる制度があります。もし、JTBが次期以降に黒字になってもその累計額が今期の赤字の金額に達するまでは今後10年間についての法人税は支払わなくてもいいことになります。資本金が1億円超になれば、控除してくれる金額は中小企業の半分の50%になります。

また、中小企業には、財務基盤が弱いことから年800万円以下の法人税が15%に軽減されるものや交際費の支出額が800万円までが損金になる制度、設備投資にかかる税額の軽減などがあります。

この「偽装中小企業化」はJTBだけではありません。既に吉本興業、スカイマーク、毎日新聞、カッパクリエイトなどが減資をして税制上の中小企業になったり、その決議をしたりしています。どう考えても、JTBをはじめ資本金を1億円にしたこれらの企業は大企業です。こうした中小企業「偽装」と思われても仕方ない減資に規制をかける必要性があります。

日本税理士会連合会では16年に資本金基準に加え「従業員1000人以下」を加えるように答申をしましたが、実現に至っていません。政府は、このような不自然な「中小企業化」を漫然と見過ごすのではなく、早急に法の抜け穴を塞いで欲しいものです。

地銀の再編は、中小企業や住民に幸せをもたらすのか?~政府が後押しをする加速策を考える~

政府は20年11月に施行した特例法で地方銀行を向こう10年間、独占禁止法の適用対象外としました。地域に欠かせないインフラとして寡占に目をつぶっても体力を高めていくことが狙いです。また日銀も20年10月から3年間の時限措置として、経営統合などの条件を満たす金融機関を対象に、日銀に預ける当座預金の残高に年0.1%の金利を上乗せします。さらに地銀の合併に1件30億円を補助する交付金制度の創設も進めています。

この背景には、日銀の19年のレポートがあります。それは、人口減少によって資金需要が細り利ざや縮小に拍車がかかり、10年後、約6割の地銀が最終赤字になるというものです。

菅首相は、官房長官時代の18年の秋に「日本には1,900兆円の個人金融資産といった大きな潜在性がある」「これで赤字になるような地銀はまじめにやっていないんだ」と発言し地方銀行に対しての不満を口にしました。折しも、16年にマイナス金利導入から2年がたって、金融機関の利ざやが縮小して地銀の経営に大きな影響が出ている時でした。

この発言の真意は、「地方にお金を行き渡らせる金融緩和の継続は欠かせない。地銀は自らが知恵を働かせ地方に仕事や雇用を生み出すべきであり、そうした努力をしない銀行まで救うのは難しい」というものです。※日経新聞の特集、地銀大改革を参照

菅首相は昨年秋に自民党総裁選挙に立候補したときに、異次元の金融緩和について聞かれ、「地方の銀行は将来的には数が多すぎる」「地方銀行の再編も一つの選択肢」という発言をして、地銀の再編に意欲を見せていました。

この既定路線により、地銀の再編を急がせて「収益力の強化」ばかりを推し進めていけば、これまで良好な関係を築いてきた中小企業に対しても「貸し渋り」や「貸し剥がし」の心配が出てきます。地銀が寡占状態になると、地元の中小企業に選択の余地はなくなり、仮に貸し剥がしに合えば他に相談する金融機関はなくなってしまいます。

また、既に進んでいる支店の統廃合が一気に進んでしまします。大和総研によると、ここ数年で約1,000店舗の削減計画があるようです。それは、利用者の利便性を損なうものです。日本の銀行の支店が多いかというと既に少なくなっています。

人口10万人あたりの金融機関の店舗数(郵便局を除く)は、スペインが67、フランスが57、イタリア50、ドイツ42、アメリカ36、日本25、イギリス17となっています。ATMやネットバンキングの普及があっても、行き届いた暖かいサービスを受けたい中小企業や地域住民にとって地銀の支店の存在は欠かせません。

菅政権の中小企業政策の基本は「生産性の低い中小企業の再編の促進」です。今後20年に企業数を現状の6割程度に圧縮する計画を立てました。これを裏付けるように、税制でも「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」として、中小企業の買収に関わる法人税の軽減措置を導入しました。

地銀の再編を追求すれば必ず切り捨てられる層が出てきます。銀行法第1条では「国民経済の健全な発展に資する」と高らかにうたっています。地銀再編の流れには疑問を抱きます。

コロナ禍で求められるのは消費税減税では?!~世界の潮流で見えてくるものは~

消費税は所得が少ないほど負担が多い逆進性の強い税金です。コロナ禍で増えている年収200万円未満の人は所得の10.5%の負担になり、年収2000万円の裕福な人は1.8%の負担ですみます。収入のまったくない人も、支出する度に容赦なく消費税がかかってきます。

中小零細業者は消費税を価格に転嫁できず、身銭を切りながら消費税を払っています。法人税や所得税は業績が悪ければ税の負担はありません。しかし、消費税は赤字でも支払わなければならない中小零細業者にとって過酷な税金といえます。

この消費税が導入されてから32年間、法人税率と所得税の最高税率は大幅に下げられてきました。大企業と富裕層は減税の恩恵を受け、その一方で中小零細業者と庶民は増税に苦しみ続けています。その結果、大企業と中小零細業者、富裕層と庶民の所得格差は想定外の大きさに拡大しています。

ところで、世界を見渡せば消費税(世界の多くは付加価値税と呼んでいます)の減税に踏み出した国が50カ国になっています。コロナ禍で消費税の減税がトレンドになっています。

その減税方法は二つに区分できます。一つは、飲食店、ホテル、映画館、美術館など売上が激減した業種に限定した引き下げです。例えば、イギリスでは、飲食店や観光業に対して20%の標準税率から5%の軽減税率に引き下げをしました。ベルギーではホテル、カフェなどに適用されていた21%の標準税率とレストランに適用されていた12%の軽減税率をそれぞれ6%に引き下げました。オーストリアもレストラン、バーに適用されていた20%の標準税率を5%に引き下げています。ノルウェーでは旅客運賃、映画館などに適用されていた12%の軽減税率を8%に引き下げています。さらにウクライナ、チェコ、コスタリカ、ウズベキスタンでは文化事業などで引き下げを実施しています。

もう一つは、業種を問わずすべての事業者に対して減税をしているやり方です。例えばドイツでは、19%の標準税率を16%に引き下げ、7%の軽減税率を5%に引き下げました。韓国では年間売上6000万ウォン(540万円)以下の個人事業主の税金を免除しています。中国では簡易課税を選択している小規模事業者に適用される売上高の3%の税率を1%に引き下げをしました。アルバニアでは中小企業の税を免除にしています。

二つの引き下げのうち日本がまねをするならドイツのように業種を限定しない引き下げです。また、韓国や中国、アルバニアのように中小業者に免税や軽減税率にすることは疲弊している経済にカンフル剤を与える効果が期待できます。ただ、この諸外国の減税措置は期間が一年足らずの限定措置です。日本の場合には、当面5%に引き下げ、さらに廃止へと展望することが可能です。

税のゆがみを是正し公平な税制を実現することがその担保です。「不公平な税制をただす会」の試算では、大企業や富裕層に応分な負担を求めることにより年間42兆円もの財源が生まれます。それを実現すれば、消費税の減税、そして廃止が展望でき、社会保障の財源も生み出せます。資本主義の大前提は「富の再分配」です。多くの人が声を上げましょう。

自助、みんな頑張っています!!~思わず本音が出たのか`生活保護`~

1月27日の参議院予算委員会で、菅首相の本音が出てしまいました。朝日新聞の記事(1月28日付)よると立憲民主党の石橋通宏議員の「弱い立場の方にも自助を求めるのか」「収入を失って路頭に迷う方、命を落とされる方が多数に上っている。政府の政策は届いているのか」などと質問。その上で、「政府の政策が届いていないことが明らかになれば、首相の責任で届けてくれるか」と首相の姿勢をただしました。

これに対して、菅首相は「いろいろな見方がある。対応策もある。政府には最終的には生活保護という仕組みも。しっかりセーフティーネットを作って行くことが大事だ。」と答弁しました。

石橋議員は、朝日新聞の取材に「あぜんとした。生活保護に至らないように政策を打つことが本来の『公助』なのに、何もしなくていい、というようなものだ。自助で頑張れ、というのが首相の基本姿勢であることが、残念ながら確認できてしまった。首相の『公助』が生活保護だとするなら、私の姿勢とは相容れない」と語りました。

午後の蓮舫議員は首相の答弁について「生活保護に陥らせないことが、首相の仕事、政治ではないか」と、私もまったく同感です。露骨な「新自由主義」路線を地で行くことの政治姿勢はこれまでの言動でわかっていましたが、フーテンの寅さんの「それを言っちゃおしまいよ」が思わず口に出てしまったのでしょう。

日本には、生活保護が必要な世帯の2割しか利用できていない実態があります。その要因のひとつが、保護申請のときに行われる親族への「扶養照会」です。生活保護の「扶養義務」の範囲は、イギリス、フランス、スウェーデンなどは配偶者と未成年の子、ドイツではそれに加え、成年の子と親です。

ところが日本では、2親等である兄弟姉妹、祖父母・孫、3親等である曾祖父母・曾孫、家庭裁判所が認めた場合には、おじ・おば・甥・姪までという信じられない位の範囲の広さです。

田村厚生労働大臣は、保護を開始した数の2倍の「扶養照会」をして、このうち金銭的援助が可能と回答した割合はわずか1.5%と回答しています。生活保護の申請を親族に知られたくないという人が多く、「扶養照会」が生活保護の利用を妨げている要因のひとつです。

総理にもいろいろな個性があり、それが後生まで語り草になっている人もいます。その勢いから「コンピューター付きブルドーザー」と言われた故田中角栄氏、話の前置きが長く「あー・うー総理」と言われた故大平正芳氏、「言語明瞭・意味不明瞭」と言われた故竹下登氏、口を開けば「失言」と揶揄された前東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏、ワンフレーズで国民をわしづかみにした小泉純一郎氏、「偽装・捏造・安倍晋三」と言われ、「募ってはいるが募集していない」という意味不明なことで言い逃れを繰り返した安倍晋三氏、さて菅義偉首相はなんと言われるのでしょうか。

大事なところでの「言い間違い」や「仮定のことはお答えできない」と説明しない、「発信力」に欠けるなどの特徴があります。さまざまなスキャンダルで内閣支持率は低め安定です。今こそ「開かれた政治」をときの宰相には期待しているのは私だけではないでしょう。

立ち止まってゼロベースで考えるべきでは?~東京オリンピックの開催ありきは改めるべきでは~

「『選手だけがやりたいと言うのはわがまま。皆さんに五輪が見たい、選手が輝く瞬間を見たいと思わせないと』昨年12月、陸上の東京五輪選考会で女子1万㍍の日本新記録を18年ぶりに更新し、日本代表に決まった新谷仁美選手は喜びとともに現状を冷静に口にした。

五輪を史上初の延期に追いやった新型コロナウイルスの猛威はいまだに収束せず、国内の大会機運もしぼんだままだ。緊急事態宣言が再発令された直後に共同通信が行った世論調査では、中止と再延期を求める声が合わせて80.1%に上った。不安を打ち消そうと、政治家や主催者が揺るぎない姿勢を口にするほど、国民との温度差が広がる悪循環。そのはざまでスポーツ選手は身を小さくしている。」と報じています。(1月29日付、日経)

また、日本オリンピック委員会(JOU)理事で元柔道選手の山口香さんは、国民の大半が五輪の再延期・中止を求めていることについて「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出や変異型への懸念もあり『残念だけど、難しい』というのが冷静で、現実的な感覚だろう」と語っています。(1月26日付、朝日)

ところが菅首相は1月7日に緊急事態宣言を発出した際に、ワクチンの普及によって「(五輪に対する)国民の雰囲気も変わってくるのではないか」と述べていましたが、ワクチン頼みが無理なのがわかると「ワクチンも前提にしなくても安心・安全な大会を開催できる」と何も根拠を示さず言い出しました。そして、政府は東京五輪を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」にすると開催の姿勢を崩していません。

この夏のオリンピック開催にはさまざまな問題点があります。

第一にワクチンの問題です。一部の国ではすでにワクチンの接種が始まっていますが、集団免疫については世界保健機構(WTO)が今年中に達成することが困難だとしています。

第二に「フェアな大会」ができるかどうかの問題です。各国の感染状況による練習環境のなどの違いやワクチンの接種の先進国とそれ以外の国の格差の問題もあります。

第三に医療体制の問題です。熱中症対策だけで1万人の医療従事者が必要とされていますが、これにコロナ対策を加えれば医療体制逼化の中さらなる人員と費用がかかります。

オリンピック憲章はその根本原則の2において「その目標は、スポーツを人間の調和のとれた発達に役立てることにあり、その目的は、人間の尊厳維持に重きを置く、平和な社会推進することにある」とし、また4では「スポーツを行うことは人権の一つである。すべての個人はいかなる種類の差別もなく、オリンピック精神によってスポーツを行う機械を与えられなければならず、それには、友情、連帯、そしてフェアプレーの精神に基づく相互理解が求められる」としています。

新型コロナウイルスは、世界の格差をさらに大きくしています。今は少し立ち止まって、「五輪開催ありき」の前のめりの姿勢から、その是非をオリンピック精神に基づいて根本的に見直すことが必要ではないでしょうか。国際オリンピック委員会(IOC)を含め徹底的な論議をすべきでしょう。

男は……~時代は変わりつつあります~

私の運転する車が新年早々渋滞に巻き込まれました。ふと目にした看板が印象的で、すぐに車内にあるメモ帳に書き留めました。「男と看板はだまってしゃべる。~書かんとわからんし、書きすぎても伝わらん~」これは、とある看板屋さんの玄関にある「看板」に書かれていた言葉です。なかなか、洒落たキャッチコピーで、看板の持っている本質を突いているのだと思います。しかし、「男は‥だまって‥」の部分は少し違和感を持ちました。

今や都市伝説化された「男は黙ってサッポロビール」のCMに大きな影響を多分に受けていると容易に思われます。このCMには今から半世紀前の1970年、当時の超大物俳優、故三船敏郎さんが起用され、一世を風靡しターゲットであった「お父さんたち」を刺激し、流行語にもなりました。しかし、今やターゲットは間違えなく「お父さん」から「全世代」へと大きく変化していて、最近のビールCMには有名な女優さんがたくさん出演しています。

「とき」はあれから半世紀経過し、今年の正月に高視聴率をたたき出した箱根駅伝のことです。最終区、まさかの逆転劇でした。テレビに釘付けだった私の妻が追い上げ、追い越す選手を伴走車から鼓舞した駒澤大学の監督の檄に不快感を抱き怒りをぶつけていました。その言葉は「男だろ!」「やったよ、男だ」ここぞの場面で「活を入れる」ために使った言葉だそうです。しかも、アナウンサーまでも「男をあげた」、選手も「監督を男に」やはり違和感があります。女子駅伝では「女だろ!」とは決して言いません。精一杯頑張る姿勢に、男も女もありません。

ところで「選択的夫婦別姓制度」を導入する世論は高まり、昨年11月の民間調査では7割を超えています。反対派は、夫婦別姓にすると「家族の絆が弱くなる」「子どもが不幸になる」と言います。しかし、社会は多様化しています。夫婦や家族にさまざまな形があります。世界では法律で同姓を強制しているのは日本だけで、外国では家族の絆が弱いとか、子どもが不幸だとかいうことはありません。

現在の日本では、離婚や再婚が増えていて、婚姻する4組に1組が双方か片方が再婚です。婚姻のたびに姓を変えることの不便さを感じる人は少なからず存在しています。また、独身の時に培ってきた姓を変えることへの不満もあります。私の知り合いの同業者が、結婚の際に、事務所名を含め手続きが煩雑だったと嘆いていました。

現行制度は、同姓を強制して、違う名前を選ぼうとする人たちに選ばせないことです。選択的夫婦別姓を認めるかどうかは、自分と違う生き方を尊重するかどうか、つまり多様な生き方を認める社会かどうかの試金石といえるでしょう。「男らしさ」や「女らしさ」だけでなく、自分らしく生きられる社会にしていかないといけないと思います。

菅首相にも責任があります。かつて選択的夫婦別姓を提唱していたからです。昨年11月の国会で「政治家としてそうしたことを申し上げてきたことには責任がある」と答弁しています。「先手・先手」は口先だけで、さまざまな対応が「後手・後手」になっているのではないでしょうか。

あなたは持ち家派?それとも賃貸派?~定年を迎える相談者の事例から~

先日、もうすぐ定年を迎えるご主人と専業主婦である奥様が事務所に相談に来られました。退職金に対する課税など事前によく調べておられ、いくつかの疑問にだけお答えして相談は終わろうとしていました。相談の最後に「住宅を購入したら節税になりますよね。」とふと質問されました。

相談者は大手企業の転勤族で地方都市を転々とされ、現在までずっと社宅に住まれていました。現在お子さんは、独立され近くにバス停がある便利な場所の賃貸アパートにお二人で住んでおられます。確かに、住宅を購入すると所得税が軽減されるインセンティブがありますが、このご夫婦にとって持ち家の購入がベストチョイスなのでしょうか?

私は、このご夫婦にとって「持ち家の選択は好ましくない。」と回答しました。その理由にご夫婦で納得されました。

そこで、住宅は持ち家が良いのか、賃貸が良いのか私の経験則を踏まえて考えました。私は結婚して以後、都会での新婚時代を過ごした賃貸アパート、子供ができその成長につれ広さの違う分譲マンションに住み替え、Uターンをしてすぐに賃貸の戸建て住宅、妻にせがまれ購入した現在の3LDKの中古の自己所有の戸建て住宅と転々としてきた経験があります。

とてもきれい好きでたびたびリフォームがしたいという妻の要望に応えて、これまで幾度となく数十万円から数百万円単位の支出をしてきました。「引っ越し貧乏」とは的を射た諺です。その都度、必要なものは紛失し、中途半端な家具などの購入をしてきました。もし時計を逆回しにできれば、購入をやめ、賃貸一本で過ごすチョイスをしていたと思います。

日本では、伝統的に持ち家政策があります。住宅ローン控除や固定資産税などの減免などです。それは、裾野が広い住宅関連業界やローンを組む金融機関などが潤う景気浮揚策のためです。

ところが一方で、政府の悩みのタネは空き家住宅です。現在、空き家率は約15%で、その割合が少ない都会でも10%を超え、地方になれば20%を超えています。団塊の世代の相続が進めば、さらに空き家は急速に進むと言われています。

住宅の需要と供給のアンバランス、次世代になると使えなくなる住宅の品質の問題、そして従前から続く相変わらず持ち家政策に偏ったことなどが原因と考えられます。

住宅を購入するメリットとして、①自分の住みたい空間ができる、②住宅の支出を相対的に抑止することができる、③資産として残ることが言われています。しかし、それは本当でしょうか。

①は、購入時には住みたい空間でもライフ・ステージの変化に伴い変わります。②は、壁の塗り替え、屋根瓦の交換など経年劣化を防ぐための費用だけでなく、リフォームなど意外に支出が大きくなります。③は、住宅ローンが長期ローンだと定年までに返済できないことや、資産として残ったとしても、特に地方では古い住宅は売却することは困難を極めます。また、相続になってもわが家のように相続人にとって不要な物件は空き家になる可能性が高いと言えます。

反対に賃貸では、①いつでも自由に引っ越しができる、②固定資産税などの維持費用や設備の交換や修理費用の負担がない、③収入やライフ・ステージに合わせて住居費をコントロールすることができるなどのメリットがあります。特にお勧めなのが、「分譲マンションの賃貸貸し」です。それは、マンションそのものが合理的な間取りであることと分譲用に作られたものはクオリティが高いという理由です。

件の相談者の場合には、税制の優遇措置が受けられるからといってなけなしの退職金を住宅の購入で支出するのではなく老後資金として有効に活用する方が望ましく、現在の便利なアパートに住み続けるのがベストチョイス方であるとの私の提案に頷かれていました。

ただし、価値観は人それぞれ違います。結婚するのかしないのか、子どもを作るのか作らないのか、夫婦で働くのかどうかもそれぞれの自由です。

また、結婚をするときに考えないといけないのは、「住宅資金」「子育て資金」「老後資金」の3つです。それを、収入と支出のバランスを考えながら未来をシミュレーションすることが大事です。

しかし、3組に1組が離婚をするといった昨今の夫婦事情があります。その場合に足かせになるのが、やはり持ち家になります。そうしたリスクを最小限にするためにも私個人としては、賃貸派です。

最後に言いたいのが、空き家対策を考えるならば持ち家政策はやめるべきだと言うことです。持ち家であろうが賃貸であろうが、空き家活用をする人にインセンティブを与える施策を講じて欲しいものです。

政治家とお金~知られていない官房機密費の実体~

年の瀬も押し迫って、吉川貴盛元農林水産大臣が21日に議員辞職を表明しました。氏をめぐっては、河井前法相夫の捜査中に浮上した広島県内の鶏卵生産大手のアキタフーズグループ元会長から、大臣室で数回にわたり現金500万円を受け取った疑惑が生じています。疑惑が発覚した当初は、不整脈を訴えて入院し「ご心配をかけていることをおわび」して自民党選挙対策委員長代行や北海道連会長、所属する二階派の事務所総長を退いていました。不整脈は慢性心不全となり、さらに手術を受けることになるとの報道です。役職の辞任も議員辞職もあくまで病気を理由にしていますが、いささか首をかしげてしまいます。

また、安倍前首相の「桜を見る会」をめぐっては、安倍氏側が前夜祭の参加費とホテルでの実費の差額が910万円余りあったにもかかわらず政治資金収支報告書にその記載がなったことで秘書が略式起訴されそうですが、本人の起訴はどうやら免れるようです。しかし、氏が国会で「明細書はない」「事務所は関与していない」「差額は補填していない」と合計118回の答弁をしました。自民党はこの間の内閣支持率の低下を危惧し、菅総理の政権運営に支障が起きないように、検察の捜査や本人の意向を踏まえ年内の国会での答弁をせざるを得ない状況になっています。

これ以外にも今年も政治とお金をめぐる事件がありました。IR汚職事件で起訴された担当副大臣の秋元司被告や公職選挙法違反事件で公判中の河井夫妻などは氷山の一角です。

いずれの事件についても政治家としての責任を明確にして、その説明責任を果たしてもらいたいものです。そして、具体的にどのような責任をとるか明言をすべきでしょう。それが議会制民主主義の根幹だからです。

政治とお金の問題と言えば、国民に余り知らされずに悪しき習慣と入れるものが官房機密費の存在です。Wikipediaでは、「内閣官房報償費は、国政の運営上必要な場合、内閣官房長官の判断で支出される経費。 内閣官房機密費とも呼ばれる。 会計処理は内閣総務官が所掌する。支出には領収書が不要で、会計検査院による監査も免除されており、原則使途が公開されることはない。」とされています。言い換えれば、『ヤミ金』です。

菅首相が官房長官時代(2012年12月から今年9月半ば)に受け取った機密費の総額はなんと86億円を超えます。1年で11億円を超えます。一体何に使ったのでしょうか。

機密費をめぐっては、市民団体が情報公開を求めた訴訟で最高裁は一部の開示を認めました。その際、原告と弁護団は管氏に、政治家・公務員・マスコミ・評論家に支出しないことと、使途を非公開にする期間を決めその期間が過ぎれば公開することなどを提言していますが、管氏はまるでそれに答えていません。

政治とお金をめぐる不正の根底には、領収書の要らない経費である機密費の存在があるのではないでしょうか。菅首相が「日本学術会議は、年間約10億円を使っている。国民に理解される存在でなければならない」と発言していますが、機密費についてはどう弁明するのでしょうか。批判されるのは、日本学術会議ではなく首相自身ではないでしょうか。

マイナンバーカードの強要の危うさ~普及が進まないのは政府に対する信頼感のなさか?~

管政権はデジタル社会の推進を旗印として、デジタル庁の創設を軸に公的な申請のデジタル化を推し進めようと躍起になっています。

その中で、マイナンバー制度(以下制度とします)を「デジタル社会のパスポート」と位置づけて、マイナンバーカード(以下カードとします)に銀行口座をはじめ、健康保険証や運転免許証などを無理やり紐付けしてカードをすべての国民に持たせることで、国民のプライバシーを脅かし、監視型社会の拡大をしようとしています。その狙いを紐解いてみます。

導入当初は、コロナ禍で延期になった東京オリンピックの競技会場での本人確認をカードでするといったことも検討されていましたが、その普及は一向に進んでいません。現在の普及率は全国で22%しかありません。この普及率を2022年度末までに100%に引き上げる目標を立て、ありとあらゆる手を考えています。

まずは、銀行口座との紐付けです。1人当たり10万円の特定定額給付金を支給する際に、カードを使ったオンライン申請でシステムダウンがおき、その事務にあたった市町村が大混乱になりました。自民党などはこの不備を逆手にとって、給付金の口座と制度とを紐付けしようとしています。また平井デジタル相は、義務化と罰則をセットにするという見解を示しています。もとより、制度は住民基本台帳を基礎としていますから、一番に手をさしのべなくてはならないホームレスのような住民票のない弱者には手が届かない仕組みになっていることも問題です。

カードは2021年3月から本人が希望すれば健康保険証の機能を上乗せするような制度設計をしています。病院や診療所、調剤薬局で顔認証付きのカードリーダーにかざすと本人確認ができ、薬の利用歴を本人や医療機関が閲覧したり、医療費情報を確定申告でも活用できるようです。その機器は医療機関に無償で配布しますが、現時点での申し込みは2割に満たない状況です。笛吹けども踊らぬ状況なので、将来は保険証の交付をやめることで、カード利用を促進する戦略です。

運転免許証もカード普及の対象です。運転免許証は国民の3人に2人が持っているいわば顔写真付きの身分証明書です。法律ではカードの取得は任意ですが、警察庁が検討しているようにカードのなかに免許証情報が入るとなれば、事実上、運転免許をとりたければカードを取得せざるを得ません。デジタル化と運転免許証の連結という意味で言えば、既に今の免許証はICカード化されています。仮に免許証がカードと一体化されれば、免許の有効期限、眼鏡等の条件が表から消えてしまいます。交通取締りに当たる現場のためにカードリーダーが必要になりますし、セキュリティー対策も必要になります。

かなりの予算をかけてCMもしているマイナポイントの普及も9月から開始していますが、利用見込みの4,000万人に対して、申込者は約500万にも満たないという不人気です。理由は「複雑で面倒」が4割、「セキュリティー面で不安」が3割となっています。面倒な手続きまでしてやるほど劇的なメリットがないと言えます。

確かに行政のデジタル化は国の存亡をかけた大事業です。しかし悲しいかな、国民の政府に対する信頼感は著しく低下しています。例えば「モリ・カケ・さくら」問題での行政文書の改ざん、廃棄、虚偽答弁などが顕著にそれを物語っています。国民からの信頼無くしてデジタル化は遅々と進まないでしょう。

さらに、監視社会のさらなる強化も危惧されます。カードが義務化されれば、例えば警察官に職務質問をされたら、カードをかざしただけで、犯罪歴だけでなく健康状態などの個人情報が丸裸になります。韓国のような住民登録番号が流出して悪用されることも想定しなくてはなりません。もちろん、カード所有者の「カード閲覧履歴をいつでも見られる権利」の確保も重要な課題です。カードに個人番号を書かない工夫やハッキングに対する対応策も講ずるべきです。

先進国のなかでかなり遅れている行政のデジタル化を進める手段として不可欠なのは、「急がば回れ」の諺のごとく国民の理解と協力を得ながら国民目線の制度を進めることが必要です。

聞きやすく、伝わりやすい話し方~口癖にしたい3つの話術~

コロナ禍で私の講演がビデオ収録になりました。それを聞き直してみると、言葉に詰まると「えっー」を乱発していました。恥ずかしい限りですが、自分の講演を自分で聞くことが今までなかったので早速この悪い癖は直す努力をしたいと思います。

先日行われた日本シリーズ第3戦で7回をノーヒットで抑えてヒーローインタビューを受けたソフトバンクのムーア投手も、会話の内容はよく分かりませんが「You Know」という言葉を連発していました。

会話などの途中でなかなか言葉が出ないときについつい出てしまい、それを多用すると聞きづらい表現になる言葉があります。日本語では、「えっー」「あー」「まあ」「なんか」などです。英語だと「You Know」「Well」「Let Me See」「But」などがそれに当たります。

なくて七癖という諺もあるように、誰もそれぞれ話し方に癖があります。それが個性という程度であれば良いのですが、どうも聞きにくいと思えば、万人が聞きやすいように改善する必要があります。その癖を他人から指摘されることは少ないので、自らが自らの癖に気づき矯正していく努力が大事だと考えます。染みついた癖はなかなか直りませんがその努力が大事です。

さて、聞きやすく伝わりやすいしゃべり方としては、短い表現で分かり易い表現を使いたいものです。仕事でもプライベートでも、やたらと話は長いけれど、何を言いたいのか、結論は何なのかが分からない人が少なくありません。このような「だらだら表現」を治すために、癖にしたい魔法のような表現方法があります。それは、次の3つです。

1つに目は、「結論から言えば……」と結論から言うことです。例えば、顧客からの苦情処理のことを上司に報告するケースで考えてみると、話の下手な人は、「朝10時位に電話で連絡があって、それは……だから……つまり……」などと報告します。上司が聞きたいのは時系列の事柄ではなく、苦情処理が上手くいったのかどうかです。話のうまい人はズバリ、結論から言います。そのことにより、上司は安心します。その後に、その経過や対処法を報告します。すると話は短くなり、上司との関係も良好に行きます。

2つ目は、「伝えたいことは3つあります」と言う表現です。これはナンバリングという手法ですが、複数のことを要領よく伝えたいときに有効です。すべての事柄を3つに要約して行く手法です。「伝えたいことは3つです。言いたい事柄の1つ目は○○○です。2つ目は△△△です。3つ目は□□□」と言ってから、それぞれの事項を話すか、それぞれの事項の頭に「1つ目は」「2つ目は」「3つ目は」と言い項目を話すことも有効です。この手法を用いることで、自分の言いたいことの論点整理になるし、聞く側にもスムーズにその内容が入ってきます。

3つ目は、「話は3分間」でまとめることです。3分あれば、かなりの情報量を聞き手に伝えやすくなります。朝礼の一言スピーチなどで、砂時計などを用いて上記の2つのことを織り交ぜて訓練すれば相当の訓練になります。そのことの応用として、与えられた時間以内で話を終えることにつながります。プレゼンや営業トーク、講演会などでも役に立ちます。