月別: 2021年1月

あなたは持ち家派?それとも賃貸派?~定年を迎える相談者の事例から~

先日、もうすぐ定年を迎えるご主人と専業主婦である奥様が事務所に相談に来られました。退職金に対する課税など事前によく調べておられ、いくつかの疑問にだけお答えして相談は終わろうとしていました。相談の最後に「住宅を購入したら節税になりますよね。」とふと質問されました。

相談者は大手企業の転勤族で地方都市を転々とされ、現在までずっと社宅に住まれていました。現在お子さんは、独立され近くにバス停がある便利な場所の賃貸アパートにお二人で住んでおられます。確かに、住宅を購入すると所得税が軽減されるインセンティブがありますが、このご夫婦にとって持ち家の購入がベストチョイスなのでしょうか?

私は、このご夫婦にとって「持ち家の選択は好ましくない。」と回答しました。その理由にご夫婦で納得されました。

そこで、住宅は持ち家が良いのか、賃貸が良いのか私の経験則を踏まえて考えました。私は結婚して以後、都会での新婚時代を過ごした賃貸アパート、子供ができその成長につれ広さの違う分譲マンションに住み替え、Uターンをしてすぐに賃貸の戸建て住宅、妻にせがまれ購入した現在の3LDKの中古の自己所有の戸建て住宅と転々としてきた経験があります。

とてもきれい好きでたびたびリフォームがしたいという妻の要望に応えて、これまで幾度となく数十万円から数百万円単位の支出をしてきました。「引っ越し貧乏」とは的を射た諺です。その都度、必要なものは紛失し、中途半端な家具などの購入をしてきました。もし時計を逆回しにできれば、購入をやめ、賃貸一本で過ごすチョイスをしていたと思います。

日本では、伝統的に持ち家政策があります。住宅ローン控除や固定資産税などの減免などです。それは、裾野が広い住宅関連業界やローンを組む金融機関などが潤う景気浮揚策のためです。

ところが一方で、政府の悩みのタネは空き家住宅です。現在、空き家率は約15%で、その割合が少ない都会でも10%を超え、地方になれば20%を超えています。団塊の世代の相続が進めば、さらに空き家は急速に進むと言われています。

住宅の需要と供給のアンバランス、次世代になると使えなくなる住宅の品質の問題、そして従前から続く相変わらず持ち家政策に偏ったことなどが原因と考えられます。

住宅を購入するメリットとして、①自分の住みたい空間ができる、②住宅の支出を相対的に抑止することができる、③資産として残ることが言われています。しかし、それは本当でしょうか。

①は、購入時には住みたい空間でもライフ・ステージの変化に伴い変わります。②は、壁の塗り替え、屋根瓦の交換など経年劣化を防ぐための費用だけでなく、リフォームなど意外に支出が大きくなります。③は、住宅ローンが長期ローンだと定年までに返済できないことや、資産として残ったとしても、特に地方では古い住宅は売却することは困難を極めます。また、相続になってもわが家のように相続人にとって不要な物件は空き家になる可能性が高いと言えます。

反対に賃貸では、①いつでも自由に引っ越しができる、②固定資産税などの維持費用や設備の交換や修理費用の負担がない、③収入やライフ・ステージに合わせて住居費をコントロールすることができるなどのメリットがあります。特にお勧めなのが、「分譲マンションの賃貸貸し」です。それは、マンションそのものが合理的な間取りであることと分譲用に作られたものはクオリティが高いという理由です。

件の相談者の場合には、税制の優遇措置が受けられるからといってなけなしの退職金を住宅の購入で支出するのではなく老後資金として有効に活用する方が望ましく、現在の便利なアパートに住み続けるのがベストチョイス方であるとの私の提案に頷かれていました。

ただし、価値観は人それぞれ違います。結婚するのかしないのか、子どもを作るのか作らないのか、夫婦で働くのかどうかもそれぞれの自由です。

また、結婚をするときに考えないといけないのは、「住宅資金」「子育て資金」「老後資金」の3つです。それを、収入と支出のバランスを考えながら未来をシミュレーションすることが大事です。

しかし、3組に1組が離婚をするといった昨今の夫婦事情があります。その場合に足かせになるのが、やはり持ち家になります。そうしたリスクを最小限にするためにも私個人としては、賃貸派です。

最後に言いたいのが、空き家対策を考えるならば持ち家政策はやめるべきだと言うことです。持ち家であろうが賃貸であろうが、空き家活用をする人にインセンティブを与える施策を講じて欲しいものです。