「強き」を助け「弱き」を挫く税制のあり方を考える~現状を変えなければ格差は助長される~

米国のシンクタンク「政策研究所」の調査は昨年3月から今年2月までの1年間で、米国の富裕層664人が約1300億㌦(約143兆円)、44%の資産を増やしていると発表しました。彼らの資産はこの1年で約3兆㌦から約4.3兆㌦へと増加しています。これは所得下位半分の資産の総合計約2.4兆㌦の1.77倍です。また、バイデン政権がめざしている新型コロナ経済対策予算1.9兆㌦の3分の2の資産を増やしたことになります。

わが国でも同様の現象が起きています。衆議院財政金融委員会で参考人となった群馬大学山田博文名誉教授は、企業の利益剰余金(内部留保)が直近で538兆円に膨らみ、富裕層の金融資産もその資産を5000万円以上有する人だけで総額588兆円に上ると指摘しました。

さらに、過去5年間で株価は2.6倍、富裕層の金融資産は1.8倍に拡大したのに対し、消費税率や社会保険料の引き上げで国民生活は厳しさを増し「異常な歪みと格差が生じている」と強調しました。そして1989年まで存在していなかった消費税が21年の歳入では最多の19%を占める基幹税なる一方で、法人税は8.4%しかないと問題視しました。

このような格差拡大の流れは国際的なものになっています。国際NGO「オックスファム」の報告では、税制の変化が格差拡大になっていると指摘しています。その試算では、2007年からの10年間で法人税収入は9.9%減少し、富裕税(資産税)収入も1.3%減少したのに対して、社会保険料収入は13%、逆進性の強い消費税(付加価値税)収入は9.8%増えたとの報告をしています。これは、大企業と富裕層の「自由」の拡大をめざす「新自由主義政策」の下で、税収が低・中所得層にシフトされた結果です。

その打開策としてオックスファムは①租税回避地を閉鎖し、収益性の高い多国籍企業と裕福な個人に対して公平な課税をする。②際限なく法人税を引き下げる「底辺の競争」を転換し、法人税率を引き上げる。③不平等を減らす政策の資金を確保して、人々と地球を中心に置く経済をつくりあげることを呼びかけています。

この流れに沿う形で変化も少しずつ生まれてきます。英国では法人税が23年から現行の19%から25%へ引き上げられます。この引き上げは約50年ぶりのものです。年間利益が5万ポンド(約750万円)未満の中小企業には現行の税率が維持されるため、25%の法人税率が適用されるのは企業全体の1割程度と見込まれています。また、米国でもバイデン大統領が3連邦法人税率を現行の21%から28%へ引き上げるに加え租税回避地の税逃れの課税強化を発表しました。

一方日本社会では、「社会保障を望むなら消費税率を引き上げるしかない」という風潮がいまだ主流となっています。しかし、「株式の配当・譲渡益の課税強化」や「法人税率の引き上げと累進課税化」など他の道もあるということを国民に知らせ、大きな世論を作り出す必要だと思います。

「強き」を助け「弱き」を挫くような日本の税制のあり方を見直すことを「税の専門家」である税理士が積極的に発信しないといけないことを痛感しています。