月別: 2023年3月

若き経済思想家、斉藤幸平氏の著書を読んで~日本社会は、もはや変えることができないのか?~

わが国の防衛費が2023年度からの5年間で総額43兆円、27年度にはGDP(国内総生産)比で2%に膨れ上がることが決りました。その金額は、米国、中国に次ぐ世界第3位です。平和憲法はどこに行ったのでしょうか。さらに、原発再稼働や新増設の容認も決まりました。12年前の福島での、あの大惨事は過去のことで忘却の彼方となったのでしょうか。

本当に残念なことですが、これが日本の政治です。しかも共通しているのは、閣議決定で拙速に決めて、まともに国会論戦をしなかった点です。こうした大転換に民意をまともに聞こうとせずに強行した姿勢はもはや民主主義国家の体をなしていません。異常な政治がまかり通るなか、国民生活は上がる物価や高い教育費の負担を余儀なくされています。

日本社会は、もはや変えることはできないのでしょうか。こうした問題に果敢な提言をされているマルクス研究の第一人者でもある斉藤幸平先生の著書を参考に、日本のあるべき社会を紐解いてみましょう。

ベストセラーになった人新世の「資本論」では、社会を変える構想を5点にまとめておられています。要約して紹介します。

その第一は、使用価値経済の転換です。具体的にはGDPの増大を目指すのではなく、人々の基本的ニーズを満たすことを重視する必要があるということです。

第二は、労働時間の短縮です。それは、ストレスを減らし、子育てや介護をする家庭にとっても、役割分担を容易にするということです。

第三は、画一的な分業の廃止です。つまり、経済成長のための効率化が最優先ではなく、利益よりも、やりがいや助け合いが重視されること経済社会に移行するということです。

第四は、生産過程の民主化です。生産手段を民主的に管理することです。つまり、生産をする際にどのような技術を開発し、どうした使い方をするのかについて、開かれた形での民主的な話し合いによって決めることです。

最後に、エッセンシャル・ワークの重視です。役に立つ、やりがいのある労働をしているという理由で低賃金・長時間労働を強いられているのがケア労働に代表されるエッセンシャル・ワークたちです。彼らがきちんとされる社会が必要です。

締めくくりで筆者は次のように括られています。『「人新世」とは、資本主義が生み出した人工物、つまり負荷や矛盾が地球を覆った時代と説明した。ただ、資本主義が地球を壊しているという意味では、今の時代を「人新世」でなく、「資本新世」と呼ぶのが正しいかもしれない。けれども、人々が力を合わせて連帯し、資本の専制から、この地球を唯一の故郷を守ることができたら、そのときには、肯定的にその新しい時代を「人新世」と呼べるようになるだろう。』

私たちにできることは、この政治や社会の有り様をただ評論家的に批判するだけでなく、何らかの行動を起こすことです。経済社会が大きく変われば必然的に政治の有りようも変わります。私たちの少しの変化が大きなうねりとなって、時代を変えることを信じて。