カテゴリー: 経営環境

お役に立つ税金のミニ知識、第3回~印紙税の基礎知識と節税~

全国商工新聞という業者団体の機関誌の「税金相談コーナー」に数年間にわたり執筆したものの中からセレクトし、5回にわたり掲載をします。今回はその3回目です。

第3回目は、意外な盲点のある印紙税についてです。

(Q)個人で宝石、貴金属の販売をしています。また、配偶者が大工の仕事をしています。印紙税の仕組みと節税方法について知りたいのですが。

(A)印紙税法で定められた課税文書に対して印紙税が課税されます。課税文書を作成すると、定められた金額の収入印紙を貼り付けて消印し、納税する必要があります。消印とは収入印紙の再利用防止が目的であることから、印鑑に限らず、署名でも認められています。

課税文書は20項目に区分されており、請負契約書(2号文書)や受取書(17号文書)などです。課税文書には、覚書や念書も該当する場合もあります。また、領収書とレシートを同時に相手方に渡すときは両方に印紙を貼る必要があります。ただしこの受取書は5万円未満のものは非課税文書になります。

印紙税の基本はどんなものが課税文書になることを把握して、きちっとその都度貼付して、消印をすることです。税務調査等で指摘されれば、その税額の3倍の過怠税の課税がされます。なお、印紙のデザインは、一定の期間で変更されます。

印紙税は、課税文書原本に課されるので、コピーの場合は課税されません。通常、契約書などは売り手・買い手の両方が原本を保管するケースが多いですが、原本をひとつ作成しもう1通はコピーで済ませることで、印紙税を半分にすることができます。

また、電子メールやFAXで文書を作成すれば課税文書には該当しない取り扱いになっています。電磁的に決済をすれば、印紙税は不要となります。

お役に立つ税金のミニ知識、第2回~個人事業者の資産の売却~

全国商工新聞という業者団体の機関誌の「税金相談コーナー」に数年間にわたり執筆したものの中からセレクトし、5回にわたり掲載をします。今回はその2回目です。

第2回目は、とても複雑な個人事業者の「資産の売却」をすっきりまとめてみました。

(Q)個人事業者です。昨年に経理に使っていた中古の軽貨物自動車を売却しました。この収入は確定申告でどうなりますか。

(A)その車を購入したときの金額と経理処理の仕方、所有期間で所得の種類と計算方法が違ってきます。

まず、その購入したときの価格が10万円未満であった場合は、売却収入は事業所得の収入金額になります。その価格が10万円以上20万円未満の場合で、一括減価償却資産としてその取得価格を3年間で経費にしていた場合も同様に事業所得の収入金額となります。

その価格が10万円以上で、固定資産として資産計上をして減価償却していた場合と10万円以上30万円未満で少額減価償却資産(青色申告の特例)として取得時の一時の必要経費にしていた場合には、売却収入は総合課税の譲渡所得の収入金額となりますので注意を要します。

譲渡所得は、収入金額から取得費と譲渡費用の合計額から特別控除(売却利益が50万円以下の場合はその金額、50万円以上のときは50万円)を控除します。取得費とは、購入価格から減価償却費を引いた帳簿価格をいいます。譲渡費用とは、売却に際してかかった諸費用をいいます。取得時から5年を超えて売却した場合には、その金額の半分が譲渡所得の金額になります。

その売却収入は事業所得になる場合も譲渡所得になる場合にも、消費税の課税売上高になります。譲渡所得になる場合にも、売却利益でなく売却収入が課税売上高になりますので間違えないようにしてください。

お役に立つ税金のミニ知識、第1回~有姿除却の意味と税務処理~

全国商工新聞という業者団体の機関誌の「税金相談コーナー」に数年間にわたり執筆したものの中からセレクトし、5回にわたり掲載をします。

第1回目は、意外に知られていない「有姿除却」についてです。

(Q)建設業を法人で営んでいます。設備を最新鋭のものにしましたが、古い同様の設備は使わないままにしています。この場合の税務処理はどうするのでしょうか。

(A)生産効率を上げるために最新設備にされたのですね。こうした場合には古い資産を廃棄等していないときであっても、その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められるものについては、その固定資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した残額をその事実が生じた日の属する事業年度の除却損として損金の額に算入することができます。

これを有姿除却(姿があっても除却したと同じ状態のもの)といいます。有姿除却は、資金の支出を伴わない経費であり節税の観点からも有効です。

しかし後の税務調査で対策が重要となります。ポイントは、その資産が将来使用される可能性がないということを立証できるかにあります。外形上その使用ができるかどうか不明なときは、トラブルがないような書類等を残すことが良いでしょう。具体的には、新規設備を導入した経緯、除却した場合の見積もり書などが有効かと思います。

また、類似のものとしてソフトウエアも同じ考え方をします。つまり物理的な除却、廃棄、消滅等がない場合であっても、今後事業の用に供しないことが明らかな事実があるときは、そのソフトウエアの帳簿価額から処分見込価額控除した残額をその事実が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。

「強き」を助け「弱き」を挫く税制のあり方を考える~現状を変えなければ格差は助長される~

米国のシンクタンク「政策研究所」の調査は昨年3月から今年2月までの1年間で、米国の富裕層664人が約1300億㌦(約143兆円)、44%の資産を増やしていると発表しました。彼らの資産はこの1年で約3兆㌦から約4.3兆㌦へと増加しています。これは所得下位半分の資産の総合計約2.4兆㌦の1.77倍です。また、バイデン政権がめざしている新型コロナ経済対策予算1.9兆㌦の3分の2の資産を増やしたことになります。

わが国でも同様の現象が起きています。衆議院財政金融委員会で参考人となった群馬大学山田博文名誉教授は、企業の利益剰余金(内部留保)が直近で538兆円に膨らみ、富裕層の金融資産もその資産を5000万円以上有する人だけで総額588兆円に上ると指摘しました。

さらに、過去5年間で株価は2.6倍、富裕層の金融資産は1.8倍に拡大したのに対し、消費税率や社会保険料の引き上げで国民生活は厳しさを増し「異常な歪みと格差が生じている」と強調しました。そして1989年まで存在していなかった消費税が21年の歳入では最多の19%を占める基幹税なる一方で、法人税は8.4%しかないと問題視しました。

このような格差拡大の流れは国際的なものになっています。国際NGO「オックスファム」の報告では、税制の変化が格差拡大になっていると指摘しています。その試算では、2007年からの10年間で法人税収入は9.9%減少し、富裕税(資産税)収入も1.3%減少したのに対して、社会保険料収入は13%、逆進性の強い消費税(付加価値税)収入は9.8%増えたとの報告をしています。これは、大企業と富裕層の「自由」の拡大をめざす「新自由主義政策」の下で、税収が低・中所得層にシフトされた結果です。

その打開策としてオックスファムは①租税回避地を閉鎖し、収益性の高い多国籍企業と裕福な個人に対して公平な課税をする。②際限なく法人税を引き下げる「底辺の競争」を転換し、法人税率を引き上げる。③不平等を減らす政策の資金を確保して、人々と地球を中心に置く経済をつくりあげることを呼びかけています。

この流れに沿う形で変化も少しずつ生まれてきます。英国では法人税が23年から現行の19%から25%へ引き上げられます。この引き上げは約50年ぶりのものです。年間利益が5万ポンド(約750万円)未満の中小企業には現行の税率が維持されるため、25%の法人税率が適用されるのは企業全体の1割程度と見込まれています。また、米国でもバイデン大統領が3連邦法人税率を現行の21%から28%へ引き上げるに加え租税回避地の税逃れの課税強化を発表しました。

一方日本社会では、「社会保障を望むなら消費税率を引き上げるしかない」という風潮がいまだ主流となっています。しかし、「株式の配当・譲渡益の課税強化」や「法人税率の引き上げと累進課税化」など他の道もあるということを国民に知らせ、大きな世論を作り出す必要だと思います。

「強き」を助け「弱き」を挫くような日本の税制のあり方を見直すことを「税の専門家」である税理士が積極的に発信しないといけないことを痛感しています。

消費税の総額表示化のねらいは?~インボイス化と一体で消費税を「付加価値税」にする布石か~

4月1日より消費税の価格表示が総額表示方式に移行しました。4月以降は店頭の表示のほか、チラシやカタログ、パンフレットなどの表示媒体にかかわらず、総額表示が求められます。この移行に伴い、多くの出版や流通業界から反対や戸惑いの声があがっています。

財務省は「総額表示の義務付けは、それまで主流であった『税抜価格表示』ではレジで請求されるまで最終的にいくら支払えばいいのか分りにくく、また、同一の商品・サービスでありながら『税抜表示』のお店と『税込表示』のお店が混在しているため価格の比較がしづらいといったことを踏まえ、事前に、「消費税額を含む価格」を一目で分かるようにするものである。このような価格表示によって、消費者の煩わしさを解消していくことが、国民の消費税に対する理解を深めていただくことにつながると考えて実施」としています。

今回の事態は、2013年に成立した消費税転化対策特別措置法が3月31日に失効するためです。このことにより、消費税法の第63条が機能します。この規定は「事業者は、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。」という内容です。

ただし、この規定には罰則はありません。つまりこの規定は、法律上は義務とはいえず、事業者に協力を求める「訓示規定」と考えられます。そもそも、価格の表示をどうするかは、事業者の裁量にゆだねられるべきです。それは、営業の自由を保障する憲法第22条の規定により、価格表示も自由であるべきだからです。再販売制度により定価販売が認められている書籍などは、総額表示になじみません。

4月1日からは、例えば100円ショップの価格表示は、「110円」「110円(税込み)」「110円(うち消費税額10円)」になります。ただし、この表示だと100円ショップは、「110円ショップ」に名称を変えないといけなくなるのではないでしょうか。

さらに、この機会に乗じて価格表示で大きな動きをしたのが、ファーストリティリング社の傘下であるユニクロとGUです。3月12日よりすべての商品を総額表示にするとともに、商品の本体価格をそのまま据え置いて、消費税込みにしたのです。つまり約9%の価格の引き下げに踏み切ったのです。商品タグを、例えば「1,990円+消費税」から「1,990円」としました。この引き下げについて、柳井正氏は「できるだけ多くの商品価格をそのままに、消費税込みのお求めやすい価格で販売し、お客様の生活に寄り添っていきたいと思っている」と発言しています。

このような動きをみると、消費税は紛れもなく『価格転嫁ができる力の強い事業者』と『価格転嫁できない力の弱いでない事業者』を生み出します。ファーストリティリング社は間違いなく前者です。価格に転嫁できない中小零細事業者は消費税相当金額を持ち出して負担しなければなりません。

総額表示の欠点は税率が変更される度に表示替えのコストがかかることにあります。さらに政府は、小規模事業者の取引排除を招くインボイス制度を強行しようとしています。1989年にむりやり導入した「消費税」を他国で実施している「付加価値税」に本格的に移行しようと画策しています。その本質とねらいをよく監視し、反対の世論をあげるべきです。

えっ!!JTBが中小企業に~税額の軽減がねらい?~

3月31日で、従業員数約2.7万人を擁する旅行会社最大手のJTBが中小企業になるということが話題になっています。資本金を現在の23.4億円から1億円に減資することになりました。既に、株主総会による決議がされています。その背景とねらいについて考えて見ます。

コロナ禍で旅行需要が激減して、業績が急速に悪化しました。前年5月の旅行取扱高(売上高)は、前年同月比で96%の減少という信じられない程の落ち込みでした。上半期(4~9月)の赤字は781億円になり、利益剰余金(いわゆる内部留保金額)は、9月末までで799億円と半年でほぼ半減しました。21年3月通期では過去最大の1,000億円の経常赤字を予想しています。緊急事態宣言が首都圏で再延長されるなかの外出自粛や東京オリンピック・パラリンピックでの海外の観客者の入国禁止措置で、旅行事業者の収益改善の兆しは一向に見えません。

そうした状況でJTBが考えたのは資本金を1億円にすることで、税制上は中小企業にして税による資金の流失を押さえることでした。確かに資本金が1億円に以下の企業は税制上の優遇策があります。

具体的には、最大の節税効果は法人事業税(都道府県民税)です。資本金が1億円を超えると事業税が外形標準課税といって、給与・支払利子・地代などの付加価値といわれるものに一定の割合で課税がされます。JTBの場合、従業員などが多いため事業税の金額は多額になります。これに比べ資本金が1億円以下の場合には、赤字企業には法人事業税は課税されません。これにより、多額の資金流失を防ぐことができます。

さらに、中小企業に該当すれば法人が赤字になればその欠損金を次期以降の黒字と通算してくれる制度があります。もし、JTBが次期以降に黒字になってもその累計額が今期の赤字の金額に達するまでは今後10年間についての法人税は支払わなくてもいいことになります。資本金が1億円超になれば、控除してくれる金額は中小企業の半分の50%になります。

また、中小企業には、財務基盤が弱いことから年800万円以下の法人税が15%に軽減されるものや交際費の支出額が800万円までが損金になる制度、設備投資にかかる税額の軽減などがあります。

この「偽装中小企業化」はJTBだけではありません。既に吉本興業、スカイマーク、毎日新聞、カッパクリエイトなどが減資をして税制上の中小企業になったり、その決議をしたりしています。どう考えても、JTBをはじめ資本金を1億円にしたこれらの企業は大企業です。こうした中小企業「偽装」と思われても仕方ない減資に規制をかける必要性があります。

日本税理士会連合会では16年に資本金基準に加え「従業員1000人以下」を加えるように答申をしましたが、実現に至っていません。政府は、このような不自然な「中小企業化」を漫然と見過ごすのではなく、早急に法の抜け穴を塞いで欲しいものです。

地銀の再編は、中小企業や住民に幸せをもたらすのか?~政府が後押しをする加速策を考える~

政府は20年11月に施行した特例法で地方銀行を向こう10年間、独占禁止法の適用対象外としました。地域に欠かせないインフラとして寡占に目をつぶっても体力を高めていくことが狙いです。また日銀も20年10月から3年間の時限措置として、経営統合などの条件を満たす金融機関を対象に、日銀に預ける当座預金の残高に年0.1%の金利を上乗せします。さらに地銀の合併に1件30億円を補助する交付金制度の創設も進めています。

この背景には、日銀の19年のレポートがあります。それは、人口減少によって資金需要が細り利ざや縮小に拍車がかかり、10年後、約6割の地銀が最終赤字になるというものです。

菅首相は、官房長官時代の18年の秋に「日本には1,900兆円の個人金融資産といった大きな潜在性がある」「これで赤字になるような地銀はまじめにやっていないんだ」と発言し地方銀行に対しての不満を口にしました。折しも、16年にマイナス金利導入から2年がたって、金融機関の利ざやが縮小して地銀の経営に大きな影響が出ている時でした。

この発言の真意は、「地方にお金を行き渡らせる金融緩和の継続は欠かせない。地銀は自らが知恵を働かせ地方に仕事や雇用を生み出すべきであり、そうした努力をしない銀行まで救うのは難しい」というものです。※日経新聞の特集、地銀大改革を参照

菅首相は昨年秋に自民党総裁選挙に立候補したときに、異次元の金融緩和について聞かれ、「地方の銀行は将来的には数が多すぎる」「地方銀行の再編も一つの選択肢」という発言をして、地銀の再編に意欲を見せていました。

この既定路線により、地銀の再編を急がせて「収益力の強化」ばかりを推し進めていけば、これまで良好な関係を築いてきた中小企業に対しても「貸し渋り」や「貸し剥がし」の心配が出てきます。地銀が寡占状態になると、地元の中小企業に選択の余地はなくなり、仮に貸し剥がしに合えば他に相談する金融機関はなくなってしまいます。

また、既に進んでいる支店の統廃合が一気に進んでしまします。大和総研によると、ここ数年で約1,000店舗の削減計画があるようです。それは、利用者の利便性を損なうものです。日本の銀行の支店が多いかというと既に少なくなっています。

人口10万人あたりの金融機関の店舗数(郵便局を除く)は、スペインが67、フランスが57、イタリア50、ドイツ42、アメリカ36、日本25、イギリス17となっています。ATMやネットバンキングの普及があっても、行き届いた暖かいサービスを受けたい中小企業や地域住民にとって地銀の支店の存在は欠かせません。

菅政権の中小企業政策の基本は「生産性の低い中小企業の再編の促進」です。今後20年に企業数を現状の6割程度に圧縮する計画を立てました。これを裏付けるように、税制でも「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」として、中小企業の買収に関わる法人税の軽減措置を導入しました。

地銀の再編を追求すれば必ず切り捨てられる層が出てきます。銀行法第1条では「国民経済の健全な発展に資する」と高らかにうたっています。地銀再編の流れには疑問を抱きます。

コロナ禍で求められるのは消費税減税では?!~世界の潮流で見えてくるものは~

消費税は所得が少ないほど負担が多い逆進性の強い税金です。コロナ禍で増えている年収200万円未満の人は所得の10.5%の負担になり、年収2000万円の裕福な人は1.8%の負担ですみます。収入のまったくない人も、支出する度に容赦なく消費税がかかってきます。

中小零細業者は消費税を価格に転嫁できず、身銭を切りながら消費税を払っています。法人税や所得税は業績が悪ければ税の負担はありません。しかし、消費税は赤字でも支払わなければならない中小零細業者にとって過酷な税金といえます。

この消費税が導入されてから32年間、法人税率と所得税の最高税率は大幅に下げられてきました。大企業と富裕層は減税の恩恵を受け、その一方で中小零細業者と庶民は増税に苦しみ続けています。その結果、大企業と中小零細業者、富裕層と庶民の所得格差は想定外の大きさに拡大しています。

ところで、世界を見渡せば消費税(世界の多くは付加価値税と呼んでいます)の減税に踏み出した国が50カ国になっています。コロナ禍で消費税の減税がトレンドになっています。

その減税方法は二つに区分できます。一つは、飲食店、ホテル、映画館、美術館など売上が激減した業種に限定した引き下げです。例えば、イギリスでは、飲食店や観光業に対して20%の標準税率から5%の軽減税率に引き下げをしました。ベルギーではホテル、カフェなどに適用されていた21%の標準税率とレストランに適用されていた12%の軽減税率をそれぞれ6%に引き下げました。オーストリアもレストラン、バーに適用されていた20%の標準税率を5%に引き下げています。ノルウェーでは旅客運賃、映画館などに適用されていた12%の軽減税率を8%に引き下げています。さらにウクライナ、チェコ、コスタリカ、ウズベキスタンでは文化事業などで引き下げを実施しています。

もう一つは、業種を問わずすべての事業者に対して減税をしているやり方です。例えばドイツでは、19%の標準税率を16%に引き下げ、7%の軽減税率を5%に引き下げました。韓国では年間売上6000万ウォン(540万円)以下の個人事業主の税金を免除しています。中国では簡易課税を選択している小規模事業者に適用される売上高の3%の税率を1%に引き下げをしました。アルバニアでは中小企業の税を免除にしています。

二つの引き下げのうち日本がまねをするならドイツのように業種を限定しない引き下げです。また、韓国や中国、アルバニアのように中小業者に免税や軽減税率にすることは疲弊している経済にカンフル剤を与える効果が期待できます。ただ、この諸外国の減税措置は期間が一年足らずの限定措置です。日本の場合には、当面5%に引き下げ、さらに廃止へと展望することが可能です。

税のゆがみを是正し公平な税制を実現することがその担保です。「不公平な税制をただす会」の試算では、大企業や富裕層に応分な負担を求めることにより年間42兆円もの財源が生まれます。それを実現すれば、消費税の減税、そして廃止が展望でき、社会保障の財源も生み出せます。資本主義の大前提は「富の再分配」です。多くの人が声を上げましょう。

自助、みんな頑張っています!!~思わず本音が出たのか`生活保護`~

1月27日の参議院予算委員会で、菅首相の本音が出てしまいました。朝日新聞の記事(1月28日付)よると立憲民主党の石橋通宏議員の「弱い立場の方にも自助を求めるのか」「収入を失って路頭に迷う方、命を落とされる方が多数に上っている。政府の政策は届いているのか」などと質問。その上で、「政府の政策が届いていないことが明らかになれば、首相の責任で届けてくれるか」と首相の姿勢をただしました。

これに対して、菅首相は「いろいろな見方がある。対応策もある。政府には最終的には生活保護という仕組みも。しっかりセーフティーネットを作って行くことが大事だ。」と答弁しました。

石橋議員は、朝日新聞の取材に「あぜんとした。生活保護に至らないように政策を打つことが本来の『公助』なのに、何もしなくていい、というようなものだ。自助で頑張れ、というのが首相の基本姿勢であることが、残念ながら確認できてしまった。首相の『公助』が生活保護だとするなら、私の姿勢とは相容れない」と語りました。

午後の蓮舫議員は首相の答弁について「生活保護に陥らせないことが、首相の仕事、政治ではないか」と、私もまったく同感です。露骨な「新自由主義」路線を地で行くことの政治姿勢はこれまでの言動でわかっていましたが、フーテンの寅さんの「それを言っちゃおしまいよ」が思わず口に出てしまったのでしょう。

日本には、生活保護が必要な世帯の2割しか利用できていない実態があります。その要因のひとつが、保護申請のときに行われる親族への「扶養照会」です。生活保護の「扶養義務」の範囲は、イギリス、フランス、スウェーデンなどは配偶者と未成年の子、ドイツではそれに加え、成年の子と親です。

ところが日本では、2親等である兄弟姉妹、祖父母・孫、3親等である曾祖父母・曾孫、家庭裁判所が認めた場合には、おじ・おば・甥・姪までという信じられない位の範囲の広さです。

田村厚生労働大臣は、保護を開始した数の2倍の「扶養照会」をして、このうち金銭的援助が可能と回答した割合はわずか1.5%と回答しています。生活保護の申請を親族に知られたくないという人が多く、「扶養照会」が生活保護の利用を妨げている要因のひとつです。

総理にもいろいろな個性があり、それが後生まで語り草になっている人もいます。その勢いから「コンピューター付きブルドーザー」と言われた故田中角栄氏、話の前置きが長く「あー・うー総理」と言われた故大平正芳氏、「言語明瞭・意味不明瞭」と言われた故竹下登氏、口を開けば「失言」と揶揄された前東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏、ワンフレーズで国民をわしづかみにした小泉純一郎氏、「偽装・捏造・安倍晋三」と言われ、「募ってはいるが募集していない」という意味不明なことで言い逃れを繰り返した安倍晋三氏、さて菅義偉首相はなんと言われるのでしょうか。

大事なところでの「言い間違い」や「仮定のことはお答えできない」と説明しない、「発信力」に欠けるなどの特徴があります。さまざまなスキャンダルで内閣支持率は低め安定です。今こそ「開かれた政治」をときの宰相には期待しているのは私だけではないでしょう。

立ち止まってゼロベースで考えるべきでは?~東京オリンピックの開催ありきは改めるべきでは~

「『選手だけがやりたいと言うのはわがまま。皆さんに五輪が見たい、選手が輝く瞬間を見たいと思わせないと』昨年12月、陸上の東京五輪選考会で女子1万㍍の日本新記録を18年ぶりに更新し、日本代表に決まった新谷仁美選手は喜びとともに現状を冷静に口にした。

五輪を史上初の延期に追いやった新型コロナウイルスの猛威はいまだに収束せず、国内の大会機運もしぼんだままだ。緊急事態宣言が再発令された直後に共同通信が行った世論調査では、中止と再延期を求める声が合わせて80.1%に上った。不安を打ち消そうと、政治家や主催者が揺るぎない姿勢を口にするほど、国民との温度差が広がる悪循環。そのはざまでスポーツ選手は身を小さくしている。」と報じています。(1月29日付、日経)

また、日本オリンピック委員会(JOU)理事で元柔道選手の山口香さんは、国民の大半が五輪の再延期・中止を求めていることについて「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出や変異型への懸念もあり『残念だけど、難しい』というのが冷静で、現実的な感覚だろう」と語っています。(1月26日付、朝日)

ところが菅首相は1月7日に緊急事態宣言を発出した際に、ワクチンの普及によって「(五輪に対する)国民の雰囲気も変わってくるのではないか」と述べていましたが、ワクチン頼みが無理なのがわかると「ワクチンも前提にしなくても安心・安全な大会を開催できる」と何も根拠を示さず言い出しました。そして、政府は東京五輪を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」にすると開催の姿勢を崩していません。

この夏のオリンピック開催にはさまざまな問題点があります。

第一にワクチンの問題です。一部の国ではすでにワクチンの接種が始まっていますが、集団免疫については世界保健機構(WTO)が今年中に達成することが困難だとしています。

第二に「フェアな大会」ができるかどうかの問題です。各国の感染状況による練習環境のなどの違いやワクチンの接種の先進国とそれ以外の国の格差の問題もあります。

第三に医療体制の問題です。熱中症対策だけで1万人の医療従事者が必要とされていますが、これにコロナ対策を加えれば医療体制逼化の中さらなる人員と費用がかかります。

オリンピック憲章はその根本原則の2において「その目標は、スポーツを人間の調和のとれた発達に役立てることにあり、その目的は、人間の尊厳維持に重きを置く、平和な社会推進することにある」とし、また4では「スポーツを行うことは人権の一つである。すべての個人はいかなる種類の差別もなく、オリンピック精神によってスポーツを行う機械を与えられなければならず、それには、友情、連帯、そしてフェアプレーの精神に基づく相互理解が求められる」としています。

新型コロナウイルスは、世界の格差をさらに大きくしています。今は少し立ち止まって、「五輪開催ありき」の前のめりの姿勢から、その是非をオリンピック精神に基づいて根本的に見直すことが必要ではないでしょうか。国際オリンピック委員会(IOC)を含め徹底的な論議をすべきでしょう。