税理士的行動心理学へのアプローチ(中編)~悪質な業者へのクレーマー、悪質企業経営者や企業、問題点が多い働き方改革を斬る~

(1) 最近のクレーマーの特性と対応策

日経新聞の2019年2月24日号に「悪質クレーム企業が対策」という大見出しでカスタマーレーマー(以下、カスハラと言います)の実態とその対応策が掲載されていました。

リードには『ささいなミスに暴言を浴びせかけ、上司を読んで土下座を求める。こんな顧客から従業員を守る対策を企業が求められている。執拗なクレームを受けると働く人の意欲が下がり、最後はサービスの低下につながるためだ。かつては顧客の泣き寝入りが問題だったが、今は顧客重視の姿勢が従業員を追いつめる。厚生労働省は働く人を守るための指針作りに動き出す』とありました。

本文を要約すると『ある鉄道会社、駅員がつけているネクタイは引っ張るとすぐに外れる。2017年度には、乗客から駅員の暴力が午後10時から終電までに77件あった。外れるネクタイは、酔って暴力を振るう乗客から身を守る手段の一つだ。カスハラはある日突然、見知らぬ人から受けて精神的に追いつめられる。

消費者の声は本来、企業にサービスの改善を促すものだ。顧客の苦情から商品の不具合がわかり、リコールにつながることも少なくない。一方、客業で働く人の半数以上が暴言や脅迫的な態度などの迷惑行為を受けていた。ごく一部の顧客とのトラブルでも従業員との重いもめ事は他の顧客を不快にする。各企業は、ガイドラインを作成し、警察などに相談したり、カウンセラーにも相談できる体制づくりをしている。

厚生労働省も今の通常国会には、パワーハラスメントを防ぐ措置を企業に義務づける法案を提出する。ハラスメント問題に詳しい弁護士は「厚労省が指針を作っても、クレームが悪質かどうかを判断することは難しい」と指摘。それは、もし正当なクレームだった場合には、企業の機会損失にもなりかねないという。』

AI(人工知能)を活用して、電話やメールなどの内容を分析し、担当者が見逃している顧客の顕在的な不満を解消するシステムを開発したベンチャー企業もあります。また、悪質クレームに対応するための弁護士費用をカバーする新しい損害保険も発売されています。企業がその他多くの対策を練ることが求められています。

(2) 企業とそこで働く人の問題点

反対に、飲食業のスタッフが不適正な動画をネット上にアップして炎上したことも多々発生しています。そのために、大手飲食チェーンが全店休業してスタッフ教育したということにもあるように企業内部からの悪質ないたずらや個人情報の流失、使い込みなど頭の痛いことも数多あります。そういう例は、スタッフに限った話ではありません。

カルロス・ゴーン氏にみられるように企業のトップが企業を食い物にしているモラルハザードもあります。鶏卵大手創業者が外国子会社からの配当のほとんどが非課税になるという方法を悪用したことで、創業者が所得税を約7億円申告漏れされたことが新聞報道されました。その記事を見ると、その端緒が富裕層や多国籍企業が利用しているタックスヘイブン(租税回避地)との関わりを記した「パナマ文書」であったということでした。もっと多くの個人や企業名が記された「パラダイス文書」を追いかけていけば、もっと不正をしている企業経営者や企業もあると推認できます。

(3) 働き方改革の背景と問題点

厚生労働省のホームページから引用すると「時間外労働の上限規制が導入されます」という見出しを出しています。
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。施行は大企業が2019年4月から中小企業が2020年4月から実施されます。

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、以下を超えることはできません。年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)の労働時間になります。「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内になります。月100時間 未満(休日労働を含む)月80時間は、1日当たり4時間程度の残業に相当します。

また、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までです。
※上記に違反した場合には、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。

改正前法律上は、残業時間の上限がありませんでした(行政指導のみ)、としています。

1947年に制定された労働基準法の約70年ぶりの大改正となる働き方改革関連法は、これまで“青天井”だった時間外労働(残業)の上限を決め、違反に罰則を設けたことが特徴でした。

働き方改革を後押ししたのは、2015年に過労自殺した日本最大手広告会社「電通」の新入社員、高橋まつりさん=当時(24)=の違法残業でした。彼女の月の残業は100時間を超え、1日2時間の睡眠を強いられ鬱病を発症しました。夢を持って入社し、将来のある高橋さんのケースは社会問題へと発展し、電通を罰する刑事事件に発展しました。

因みに、日本の長時間労働は国内外から批判の的で「過労死(karoshi)」が初めて英語の辞書に掲載されたのは2002年です。今や「寿司(sushi)」と同じく国際用語になっています。

しかし、この法案は様々な問題点と「偽装」を抱えながら、最近の与党の常とう手段である数の力での強行採決でした。どうして、そんなに拙速にしなければならないのでしょうか。

最大の問題点は、雇用対策法の役割を大きく変質させることです。法律の名称を「雇用対策」から「労働施策」に変え、他の先進国から大きく遅れているといわれている「労働生産性の向上」を目的にしています。また「多様な就業形態の普及」が国の施策と位置付けられています。換言すると「同一労働、同一賃金」という当たり前のことをかなぐり捨て、労働者同士を分断して格差を助長することにつながります。また、労働者保護法制が適用されない働き方も含む「多様な就業形態の普及」を国の施策に加えることは、無権利・低所得の労働者を増大させることにつながります。

さらに、あまりにも低い最低賃金のかさ上げ不足と「都道府県別」に格差があることです。つまり首都圏との賃金格差です。例えば神奈川県の最低賃金(2018年10月1日)は1時間983円です。因みに東京都は985円です。県境である千歳川を挟んでいる静岡県は858円でその差は125円、山口県は802円でその差は181円です。仮に2000時間働くと年間362,000円の差が出ます。それが若年労働力を中心とした首都圏への社会減の要因の一つとなっています。首都圏には公共交通機関が充実していますが、山口県のそれは余りにも不十分で、車がないと実質的に移動ができません。したがって、医療機関の診療報酬のように全国一律とすべきです。

仮にこの法律が施行されても、形式上は時間外労働に押さえられても実質の労働時間は変わらないでしょう。例えば私の義理の息子は、上場企業のエンジニアである素材の試験や研究をやっています。帰宅はほぼ毎日、日付が変わる時間です。休日でも2人の子どもが寝静まって会社に行きます。それは、いったん動き出した実験装置を止めると正確なデータが取れないからだそうです。休日でも、自宅にPCを持ち帰りデータの異変がないか時々見ています。当然、そんな働き方でどこまでが所定内労働時間か残業なのかの線引きをするのは極めて困難です。

また、知人の娘さんは市役所に勤務し毎日相当な残業をされているそうです。予算で賃金が決まっているので残業時間と残業手当がスライドしていません。大阪維新の創設者の橋下氏は、公務員の給料が高すぎるのでそれを民間並みにして「公務員貴族」に大ナタを振るったといいますが、公務員は公僕です。かつては、民間企業よりもはるかに低い賃金で長期間働いていました。いざ災害や火事事件等が発生した場合は命を賭して住民を守る義務があります。現に、東日本大震災の時や消防士や警察官等は自らの命を賭した人がたくさんおられます。民間で働く労働者の賃金を上げることのほうが正論です。財政難であるならば、ムダな公共投資をやめるべきでしょう。