これで良いの?法人税制のあり方~内部留保課税のあり方を中心に考える~

今度の総選挙の中でも安倍首相はしきりに「アベノミクス」による経済効果を掲げていました。確かに、今続いている「好景気」がいざなぎ景気(1965年11月~70年7月の57ヶ月間続いた景気拡張局面)を超えたとの報道がされています。現在の好景気は2012年12月から始まりましたので、2017年9月で58ヶ月になり「いざなぎ景気超え」となるのでしょうが、問題はその中身にあります。いざなぎ景気の間に国民総生産(GDP)は1.63倍に増加しましたが、今回の景気拡張局面では1.06倍にしかなっていないのです。

国民にその実感がないのは、最初に①巨大企業や超富裕層だけが税などの恩恵などを受けていてますます格差の広がりを見せているからです。いわゆる富の偏在です。次に②安倍政権が始まってから実質賃金が年間10万円低下し、1所帯当たりの家計消費も年間22万円も落ちているからです。また、2005年には正規雇用が67.4%あったものが、62.5%と減っている反面、不安定雇用である非正規雇用が32.6%から、37.5%に激増していることも挙げられます。特に若者の不安定雇用が顕著です。これが「少子化」の影響の1つの要因になっていることは明らかです。最後に③今までは中小零細業者は法人であれば法的には強制適応であっても滞納者が増えるとの理由で、社会保険に加入できないことが問題でしたが、この2年前から手のひらを返したように未加入事業者への強制的な加入勧奨で、会社の負担が増え、そこで働く労働者は実質的な手取りがかなり減ることになったからです。

これらのことを実証するように、総務省が10月31日に発表した9月の家計調査によると、1世帯(2人以上)当たりの消費支出は268,802円となり、物価の変動の影響を除いた実質で前年同月比0.3%減少しました。マイナスは2ヶ月ぶり。消費税率を引き上げた2014年4月以後の42ヶ月中38ヶ月が前年割れです。

ところで、この総選挙の争点は「消費税増税の使途」でした。国の借金返済を先送りし「こども」を生け贄にして票をかすめとったとの印象を個人的には感じています。その代替の財源をどうするかということで選挙戦の中で、「企業の内部留保」に課税すべきかどうかが与野党双方からの議論になりました。10月20日の日本経済新聞の「大機小機」というマーケットのコラム欄に「内部留保課税が問うもの」というタイトルでこの問題が取りあげられていました。

記事を要約すると「……経済界は『内部留保は二重課税である』と反対している。そもそも内部留保は法人税等を支払った後に残った利益の集積というわけだ。また、我が国の法人税負担率が諸外国より高いとの経済界からの声に配慮して、2015年には32.11%であった法人税実効税率が来年度には29.74%にまで軽減される減税措置と整合性が合わないという声もある。

総務省の統計によると、内部留保総額は07年には269兆円であったが、年々確実に増加し、16年には406兆に達している。また、現預金は07年の135兆円が16年には211兆円にまで積み上がった。最近のシンクタンクの分析では上場企業の約6割が実質無借金経営である。

しかし、なぜ今内部留保課税なのか。

かねて『企業の6重苦』と言われた事態にたいして、法人税減税や円高対策、そして日銀の超緩和策の継続など、政府や中央銀行はプロビジネス政策を続けてきた。それにも関わらず、企業はリスクをとって事業を展開するとか、従業員への還元を増やすとか、~中略~ただ何かあった時のためにと利益と現預金を蓄積するだけであった。

現に設備投資の水準は1995年以来横ばいで、労働分配率は2001年の75%から67%に下がってきている。そこへの政策当局の不満や憤慨が背景にあると見てよかろう。

~中略~内部留保課税の論議で真に問われているのは、わが国の経営者にアニマルスピリットをいかに取り戻すかということなのだ。……情けないことに。」

私の視点とは多少違うかもしれませんが、このコラムを書かれた人に賛同をします。

中間決算発表のピークの時期ですが、どんどん内部留保は積み増しされる方向に動いていますが、従業員への分配どころか、残業の減少で労働者の賃金は減っています。

日本有数の電機メーカーであった東芝の粉飾、日産自動車に続いてスバルの正規検査員がしたようにして出荷をした改ざん事件や神戸製鋼所のデータ改ざん事件などなど、世界の中でも「メイド・イン・ジャパン」といわれた信頼が利益のためだったらモラルも何もなくなる風潮になっています。

私は、日経新聞のコラムにあったような「ただ何かあった時のためにと利益と現預金を蓄積するだけであった。」という企業には、応分な内部留保課税をすべきだと思います。

安倍首相は「そんなことをしたら、日本の企業は海外に逃げてしまう。」「二重課税が生じてしまう。」などと言っていますが、内部留保金課税をしなくても企業はどんどん海外に逃げています。また、財界人などはしきりに「愛国心」という言葉を言っていますが、真の「愛国心」があれば、応分な負担をすべきです。反対論者からは「台湾が98年から企業の内部留保に対して10%の税金を課し、企業は成長投資に動きにくくなった。」との指摘がありますが、消費税2%の増税での税収効果は約4兆円です。211兆円あると言われている超大企業を中心とした現預金に毎年わずか2%課税すれば消費税の増税の必要性がなくなります。また、二重課税で身近なところでいえば消費税には、ガソリンやたばこなど多くの二重課税があります。またそうした課税が「イヤだ。」という企業には、設備投資や人材投資や賃上げをすればその部分は控除するといった制度設計にすれば良いのではないでしょうか。

また、アメリカが実施しているような法人税の累進課税(15%~35%)をすべきだろうと思います。それとともに菅隆徳税理士が試算しているような租税特別措置法を使った大企業の減税額6.4兆円を廃止する、この間の法人税の引き下げによる減税額7.5兆を元に戻せば併せて14兆円の財源が生まれます。

「大企業栄えて、民滅ぶ」にならないように、立法府や行政府は真剣に法人税課税のあり方を考えて欲しいし、8時間働ければまともな暮らしができるような制度設計を本気ですべきだろうと思います。また併せて、「大企業と中小零細企業」と「超富裕層と貧困層」の格差是正にも本腰を入れて欲しいものです。

失われかけようとしている「ものづくり大国、ニッポン」の誇りと使命を国民全体で、自らのものとして考えて行ければ良いと真剣に思っている今日この頃です。