カテゴリー: 経営環境

岸田首相、それを日和見と言うのではないでしょうか?!~金融所得課税について考える~

首相は、総裁選後の記者会見で「岸田文雄の特技は『人の話をよく聞く』ということだ」と自身のメモ帳を併せて国民に向けて発信しました。その「聞く力」が本物かどうか試されます。しかし、自身の公約でもあった金融所得課税については多くの国民の声でなく、少数の富裕層とそれを擁護する為政者の声を敏感に聞いたのではないでしょうか。

日経新聞(11月8日号)の「マネーのまなび」欄に金融所得課税が特集されていました。タイトルは「税率一定、高所得者は負担軽く」というもので、Q&A方式での解説でした。その解説の一つが『(Q)お金持ちは投資の税で得をしていると聞きました。(A)一般に所得の高い人が株式など金融商品を多く持ち、年収に占める投資の利益の割合が大きくなりがちです。所得税は累進課税で高所得者の負担が大きくなります。しかし、投資による利益を他の所得と分けて計算する税率は一律です。国税庁の資料によると、投資利益と他の収入の合計額に対して実際に払った所得税の割合を所得別にみると、ピークは1億円です。それを超えると割合が下がるため「1億円の壁」と呼ばれています。』としていました。

財務省によると、2019年時点で所得が5千万~1億円の層の所得税負担率は27.9%ですが、20億円~50億円の層だと18.9%に下がっています。この現象は、明らかに多くの金融資産を保有する富裕層に対して恩恵だといえるでしょう。

日経新聞は、『岸田首相は就任当初の記者会見で金融所得課税について検討の意向を示していましたが、わずか1週間で「当面は触ることはない」と前言を覆した。今回の首相の方針変更は、金融所得課税を警戒する株式市場の声に対して「聞く力」を発揮したともいえる。しかし、「こんなに早く主張を取り下げるのは今後の政権運営にとって不安のタネになりそうだ。」と報道していました。

岸田総理と同い年の私は、「聞く力」だけでなく、「涙する目」と「傾ける耳」と「差し伸べる手」が必要だと思います。

富裕層の金融所得が分離課税(国税15%、地方税5%)でなく、総合課税であれば他の所得と合わせて税率55%(国税45%、地方税10%)になるところが、一般勤労者の所得400万円の階層と同じ税率の20%というのはあまりにも不公平です。

配当所得だけでも税率20%の分離課税を廃止し、総合課税にすれば約1兆の税収が生まれると財務省は試算しています。また、自民党の高市早苗政調会長は「50万円以上の金融所得の税率を30%に引き上げれば約3,000億円の増収になる」とかつて発言していました。

米国の著名な投資家のウォーレン・バフェット氏は「過去20年間、階級闘争が続いたが、勝利したのはわれわれの階級だ。われわれの階級が税率を劇的に引き上げたのだ」(2011年9月30日付、ワシントン・ポスト紙)としていましたが、その流れとは逆にバイデン米大統領は4月の議会演説で「1%の富裕層に課税する。ここから税金を取らなくてどうするんだ。」と発言しました。岸田総理、「日和見」せずに、金融所得課税を実行してください。

インボイス制度を廃止と消費税減税は不離一体~圧倒的大多数の税理士も反対を表明~

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の実施(2023年10月1日開始)に先だってこの10月1日よりインボイス(適格請求書等)を発行できる事業者の登録申請が始まりました。

同時に、10月31日投開票となる総選挙も最終盤となり、消費税の減税の是非をめぐって与野党が論戦を戦わせています。与党である自民党・公明党以外の政党は、減税の期間をめぐって若干の温度差はあるにせよ消費税減税に前向きです。

与野党が逆転すれば、消費税減税が現実のものになります。そうなると、インボイス制度にも大きな節目になります。というのはインボイス制度導入の理由のひとつが複数税率に対応することにあるからです。消費税を5%に減税すれば、現在の8%と10%の複数税率は解消されます。したがって、インボイス制度導入の根拠が崩れます。

税理士業界も大きく影響されるこの制度について否定的です。日本税理士会連合会・日本税理士政治連盟は、令和4年度の税制改革に関する重要建議事項のトップに、インボイス制度の見直しとその導入時期を延期することをあげています。その理由は、事務負担と市場に与える影響を考慮してのことです。

業界紙である「税理士新聞」の9月15日号では、インボイス導入に反対する意見がなんと88%にも上っていました。そのコメント欄のなかで的を射ているものがありましたので紹介します。『インボイス制度の実施には絶対反対である。消費税はもともと憲法が保障する負担公平の原則(憲法14条)に反する最も民主主義に反する税制である。インボイス制度の施行は、免税事業者を経済取引を通じて通常の活動から締め出す効果を持っている。したがって中小零細業者は免税を放棄するか廃業するかの選択に迫られることになる。解決策は一つ、消費税そのものを廃止すること以外にない。そうしなければ税理士業務も、もはや継続できなくなるだろう。納税者は主権者である。税理士も主権者の一人である。納税者と手を携えて、最悪の大衆課税である消費税をなくすために立ち上がろうではないか。』との記載、私もまったく同感です。

財務省は、年間課税売上高1,000万円以下のフリーランスや零細個人事業者、法人の免税事業者のうち160万者・社が課税事業者を選択するとみており、その増収額は約2,500億円であるという試算を公開しています。しかし、それらの人たちが意図的に消費税の負担を免れている問題児なのでしょうか。

答えはもちろん否です。課税事業者の選択を迫られる事業者は、個人タクシーや赤帽などの運送事業者、出版・生保・損保の代理店、建設業の一人親方、外注化された社員、シルバー人材センターで働く人、数多くの農家など多岐にわたります。それらの人たちが、インボイス制度の問題点だけでなくその制度さえ知らされないまま、否が応でも課税事業者の選択か廃業かを迫られることになるのは明らかです。

今回の総選挙で消費税の減税を実現し、インボイス制度の廃止させるための投票行動を起こしていきましょう。

暴力団に対する課税について考える~税務調査を強化すべきでは?~

8月24日、福岡県北九州市に本部を置く特定危険指定暴力団「工藤会」のトップ総裁の野村悟被告(74)に死刑判決が言い渡されました。福岡県で起きた4つの暴力団関係者でない一般市民襲撃事件で殺人などの罪に問われていました。

既にさまざまな取締りの強化で、暴力団やその構成員は銀行口座が作れない、金融機関からの融資が受けられない、スマホを契約できない、車を購入できない、賃貸住宅に入居できないなど生活面での締付けが厳しくなっています。しかし、その締付けの網の目を潜っている実態があるのも事実です。警察などがなすべき対策や課題もまだまだ多いのが現状です。

野村被告は判決を不服として控訴しました。直接的な証拠はなくとも組内での絶対的地位を根拠にトップの責任を問い、極刑に処した今回の判決を賞賛する声がある一方、推論と推認を重ねる手法についての危険性を指摘する声もあります。

この死刑判決に先んじて今年2月16日に、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は、工藤会の上納金を巡り、約3億2千万円を脱税したとして所得税法違反罪に問われた会トップの総裁、野村被告の上告を棄却する決定をしました。懲役3年の実刑、罰金8千万円とした一、二審判決が確定しました。2010年から2014年の5年間、不動産所得については申告していたものの、被告が上納金のうち個人的に収納していた部分の約8億を申告していませんでした。

一審の福岡地裁は、口座の記録や組関係者の証言に基づき、工藤会が「みかじめ料」として建設業者などから集めた上納金が、一定の比率で野村被告に分配され個人的な支出(被告の交際相手のマンション購入費用や親族の生活費・養育費等)に充てられていました。さらに、被告の個人資産の増加状況とも符合していました。それらを総合判断しての判決でした。二審の福岡高裁もこれを支持していました。

これらの所得について判決は、一時所得や事業所得に該当するものではなく、雑所得に該当し、さらにその所得に対する必要経費はないと判決しました。この判決について支持する声がある一方で課税の妥当性について異論もあるようです。

日本弁護士連合会は、「暴力団の上納金に対する課税の適正な実施を求める意見書」を取りまとめ、2017年2月17日付けで内閣総理大臣、法務大臣、財務大臣、国税庁長官及び警察庁長官宛てに提出しました。意見書の趣旨は、「課税に関する関係機関に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に規定する暴力団の代表者(組長、総長、会長、理事長等と称する暴力団の首領)に支払われる上納金の課税のために、法律に基づき、質問検査権等を行使し、その実態を把握した上で、その結果に基づき、適正な課税措置を講じることを求める。」という内容です。

つまり、暴力団についての税務調査を厳格にすることを示唆しています。しかし、税務署はこの分野には手が及んでいないのが実態です。この事件を受け、警察と税務署がチームを組んで税務調査を積極的に行い、その結果を公表することが求められていると思います。

最近耳にするSDGs~誰一人取り残さない社会の実現をめざして~

最近よく耳にする言葉にSDGsがあります。

SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の頭文字をとった言葉です。小泉前環境大臣などがスーツにカラフルな丸いバッチをつけていますが、あれがSDGsバッジです。

異常気象が世界各地に頻発するなど、私たちの地球が人類生存の危機に陥っているときに、先進国、途上国を問わず、全世界が直面する問題の解決を共有しました。2015年の国連総会において全会一致で採択されました。2030年まで17の目標を掲げています。その目標は、次の5つのPのカテゴリーに分類されています。

人間(People)①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に

繁栄(Prosperity)⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤をつくろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられるまちづくりを、⑫つくる責任、つかう責任

地球(Planet)⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさを守ろう

平和(Peace)⑯平和と公正をすべての人に

パートナーシップ(Partnership)⑰パートナーシップで目標を達成しよう

SDGsは、個々別々であった「経済、社会、環境」の3つの側面の取り組みを統合する目標になっています。これまで私たちのさまざまな分野の運動や取り組みが集約されたものといえます。そして「誰一人取り残さない」社会の実現をスローガンに、「世界を持続可能かつ強くしなやかな道筋に移行させる」ことをめざしています。

全会一致を可能にするために不十分な側面もあります。例えば⑦では、クリーンエネルギーの提示があっても原子力発電問題については触れられていません。また⑯では、核兵器廃絶の課題については触れられていません。

この採択を受けて日本でも2016年5月に、SDGs推進本部が総理大臣のもとに、全閣僚を構成員として設置され、同年の16年12月より実施指針が決定されました。政府の重点施策として3本の柱と8つの優先課題が掲げられましたが、決して十分な取り組みとはいえないのが現状です。

しかし、民間レベルではさまざまな取り組みがされています。例えば、2020年4月からコンビニ店などでのレジ袋の有償化が決まりました。使い捨てプラスチックの削減をめざしたものですが、実際に効果を発揮しています。

日本人の国民性からして、自分自身が納得したことについてはきちっと実行します。コロナ禍でのマスクの着用などがその例です。政府がきっちりと方向性を示せば、SDGsはこの国に定着すると思います。

宇宙船地球号の乗組員として、この課題に立ち向かわなければなりません。

心ある政治家に提言する4つの税制改革~格差是正と庶民にやさしい税制をめざして~

日本の税制の大きな転換点になった消費税導入(1989年)から32年間の特徴は次の3点に要約されます。

①法人税・所得税・相続税の最高税率は大幅に引き下げられました。その結果それぞれの税収は大きく落ち込みました。同時にその不足分を補うように新規国債の発行は増えました。

②消費税は度重なる税率の引き上げが行われ、各種の零細事業者を配慮する制度の見直しがはかられました。消費税は補完税から基幹税へと姿を変え、いつのまにか税収のトップの地位を占めるようになりました。

③その結果、大企業と富裕層はその果実を受けましたが、その一方で多くの庶民と中小零細企業は増税にあえいでいます。つまり、個人・法人ともに、所得格差はこれまでにないほど拡大しています。

ところで、租税のあり方に「応能負担の原則」があります。「応能負担」とは、負担能力のない者には税を少ない負担率にし、所得の高い者にはより高い負担率で税を課すことによって、所得を再配分する機能を与えるという考え方です。

具体的には(1)間接税ではなく直接税(所得課税)を中心にする。(2)各種の所得を総合化して、所得が多くなるに応じて高い税率(超過累進税率)を課す。(3)生活費は非課税とする。(4)勤労所得(給与所得や事業所得など)には軽い税金を、不労所得(株式の配当や譲渡など)には重い税金を課す、などを言います。

改革の4つの提案は、消費課税、法人課税、所得課税、資産課税のそれぞれの分野です。

まず、消費課税は、逆進性(所得の低い人ほどその負担率が高い)の強い消費税を当面5%に減税し、将来は廃止することです。その代替財源の一部として、新しい形の物品税(大企業のメーカー、例えば自動車産業などに出荷の時点で一定税率を課す)を創設してはどうでしょうか。さらに、免税事業者だけでなく課税事業者も大混乱に陥るインボイス制度への移行をやめることが喫緊の課題です。

次に、法人課税は、企業規模が大きくなればなるほど税率が低くなる仕組み(租税措置法などが原因です)を改めなければなりません。また、課税の仕組みを比例税率から所得税のように超過累進税率に変えることが必要です。

そして、個人課税では、消費税導入後に下げられた超過累進課税を強化することです。健康保険料に対する負担率を上限なしにすることも課題です。さらに、金融資産(株式の譲渡や配当など)を総合課税にすることです。不動産の譲渡も総合課税にすることも検討が必要です。

最後に、資産課税は、相続税の累進課税を強化することが大事です。併せて、超富裕層(具体的には、金融資産を5億円以上所有している個人)から低率でも良いので課税する仕組みを創設という発想はどうでしょうか。

総選挙の日程が10月31日で決まりました。それぞれの政治家(所属政党は問いません)が信念を持ってその世界に入られたのだろうと思います。日本は異常なまでの格差社会になっています。

政治家の皆さんには初心を忘れず、国民目線でこの格差社会を解決するための税制のあり方に目を向けてもらえればと願います。市井の税理士からのメッセージです。

アマゾンの功罪を考える~その創業者に応分の負担を求めるべきです!~

7月20日、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏が、自らが設立した宇宙開発企業のロケットで約10分間の宇宙旅行をしました。多くのマスコミが取り上げ、「新しい時代の幕開け」のごとく報道をしました。

奇しくもこの日は今から52年前の1969年に人類が初めて月面着陸をした日でした。地球ではこの快挙のTV中継を6億人が見ました。アポロ11号のアームストロング船長は「これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」と述べました。

一方、ベゾス氏は「アマゾンの全従業員、すべての顧客に感謝したい。あなた方が今回の費用のすべてを払ってくれたのだから」と、大はしゃぎでした。

私も、アマゾンの顧客のひとりです。確かに、アマゾンが私たちの生活様式を格段に変えたことは論を待たないでしょう。大きな本屋さんが近くにないので注文して取り寄せになる専門書も翌日に手元に届きます。中古の書籍も豊富に在庫があります。近くのスーパーでは売っていない私が愛飲しているフランス産炭酸水の「ペリエ」も手に入ります。かさの張る品物も自宅まで宅配業者が注文した翌日に届けてくれます。

そんなアマゾンは超巨大化しています。売上高は、2016年に1,360億ドルであったものが4年後の2020年には2.8倍増の3,861億ドルに、営業利益は同期間で42億ドルが229億ドルと5.5倍に、売上高対営業利益率も3.1%から5.9%と1.9倍改善されています。

従業員の数も34.1万人から129.8万人と3.8倍になっています。アマゾンはGAFA(ガーファ=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるアメリカの主要IT企業の一角を形成していますが、従業員の数は他の3社の合計より多くなっています。ちなみにグーグルは13.5万人、アップル12.3万人、フェイスブック5.9万人です。

会社だけではありません。個人資産も膨れあがっています。アメリカの大富豪を調べている政策研究所によると、ベゾス氏の資産は7月時点で2,124億ドル(日本円で約23兆円)です。コロナ危機が深刻化した2020年3月から1.9倍も増やしました。10億ドル以上の資産を持つアメリカの大富豪713人の資産は同じ期間で1.6倍に増え、総額4.7兆円とドイツのGDP(国内総生産)を上回っています。

国際NGOのオックスファムは、「億万長者は不公平な税制と脆弱な労働者保護で資産を増やしている」と指摘しています。そして、「連邦所得税をほとんど払わないくせに自らの宇宙旅行には75億ドルも費やせる」とベゾス氏を批判し、富裕層への課税強化で学校や病院を造るべきだとしています。

また民主党の議員などからも「彼が10分間の宇宙旅行を楽しんでいる一方でアマゾンの倉庫労働者は10時間立ちっぱなしで働く」「看護師よりも低い税金しか払わず、宇宙旅行を競い合っている」「経済的正義のある社会なら、ホームレスや飢餓をなくすために彼に1,000億ドルの地球帰還税を課すだろう。それでも彼はまだ世界で8番目の富豪だ」などの鋭い指摘がされています。

課税の適正化は、アメリカだけでなく日本の歪んだ二極化社会でも焦眉の課題です。

消費税のインボイス制度化は国税庁の悲願?!~社会問題化して阻止する機運を高めましょう~

消費税法の2026年(平成28年)度改正において、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)による仕入税額控除を導入することが決めらました。そのインボイスを発行することができる事業者の登録制度が間近に迫ってきました。 2021 年(令和 3 年)10 月より開始されることになっています。

日本の現行の消費税の仕入税額控除は、帳簿及び請求書等保存方式と呼ばれるもので、原則として請求書等の保存と帳簿に「課税仕入れの相手方の氏名又は名称、課税仕入れを行った年月日、課税仕入れに係る資産又は役務の内容、課税仕入れに係る支払対価の額」の記載を要求されています。

ところがインボイス制度になると、税務署長に申請をして登録を受けた課税事業者が交付する適格請求書(インボイス)の保存が課税仕入れの要件になります。つまり、登録を受けない免税事業者などからの課税仕入れについては、仕入れ税額控除ができなくなり、結果として消費税の納税額が増えることになります。

課税事業者は、免税事業者に課税選択を依頼するか、増加する税額分だけ値引きしてもらわないと事業経営に支障が出ます。反対に免税事業者の取る選択肢は3です。

一つ目は、課税事業者を選択し消費税を納税する道、二つ目は、取引先の値引き要請を甘んじて受ける道、三つ目は、事業をこの際だから廃業することです。いずれにしても酷な選択を迫られます。

現行の免税事業者は、個人・法人で500万件を遙かに超えると言われています。財務省の試算では、課税事業者を選択する免税事業者は161万件としています。これらの事業者には「建設業の一人親方、IT技術者、フリーライター、クラブなどのホステスさんなど多様な個人事業主、ウーバーイーツの配達員、アニメーターなどフリーランスと言われる方々が含まれる」とされていますが、さらに個人タクシーや赤帽などの運送業、音楽・書道・英語教室の講師、ヤクルト販売員、生損保の外交員、シルバー人材センターで働く人など多岐にわたります。

こんな大きな問題が社会問題化されない理由は、国民の圧倒的に多数が給与所得者(約6,000万人)だからです。しかし、消費者である給与所得者も、この制度の混乱による価格の便乗値上げや事業を廃止する人の増加で利便性が低下するなどの影響を受けます。

消費税は、その誕生のときから実際に納税する事業者から大きな反対運動が起きないように着実に、免税点や簡易課税制度の金額の引き下げ、限界控除の廃止などを実施してきました。

その集大成といえるのがインボイス制度の創設です。財務省はこの制度により、より厳格な消費税の税額計算ができます。また、課税事業者の増加や、免税事業者分の仕入れ税額控除の減少で税収が約2,500億円増加すると言われています。さらに、今後の消費税の税率アップもしやすくなると考えられます。

多くの国民が、この問題を自分のことと捉え、反対行動することが求められています。

最低賃金3%アップは賃金格差是正の一里塚~さらなる時給アップは景気の好循環をもたらす~

中央最低賃金審議会(厚生労働書の諮問機関)の小委員会は7月14日、2021年度の最低賃金(以下最賃とします)をすべての地域で28円引き上げる目安をまとめました。 この引き上げ額は02年度に時給で示す現在の方式になってから過去最大で、上げ幅は3.1%になりました。

目安どおりの改定になれば現行の全国加重平均902円から930円になります。最高額は東京都1,041円、最低額は秋田県、島根県、大分県、沖縄県などが820円となり、800円未満の県はなくなります。山口県は857円となります。国の審議会が目安を決め、これを基に各都道府県が実際の金額を決定して、10月頃に新たな最賃が適用されることになります。

山口県の857円の最賃で月労働時間を150時間(年1,800時間)とすると、月128,550円となります。この水準ではとても暮らしが成り立ちません。若い世代には、生活費だけでなく奨学金の返済をしている人も多く存在しています。また、子育て中のシングルマザーなどは、保育料などの出費もあります。

菅首相は5月14日の経済財政諮問会議で「より早期に全国平均1,000円をめざし、本年の引き上げに取り組むと」と述べました。また、6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、「感染症下でも最賃を引き上げてきた諸外国の取組も参考にして、(中略)取り組む」としています。

先進諸国の最賃は、内閣府によるとフランスとイギリスが1,302円、ドイツが1,206円、アメリカが1,060円です。引き上げ幅はイギリスで昨年度が6.2%、本年度が2.2%、ドイツは昨年度1.7%、今年度1.6%の引き上げです。これに比べ日本は昨年度0.1%、今年度3.1%なので見劣りがします。

どの位の最賃が必要なのでしょうか。山口県労働組合総連合が産業関連表にもとづく経済効果分析をしたら、時給1,500円にすることが勤労者の家計を暖めるだけでなく、地域経済の好循環にきわめて大きな効果をもたらすことが実証されたとしています。この試算によると、引き上げの結果、県全体の賃金総額は3,729億円の増加、家計消費支出は2,557億円の増加、それに伴う生産誘発額は2,812億円、雇用誘発数は1.9万人になりました。また、労働者の所得増によって、社会保障税源と税収がそれぞれ484億円と353億円増え、中小企業支援策を思い切って改善する余裕が生まれてくるとしています。

最賃の引き上げは、小委員会でも「経済の好循環を実現させることや非正規雇用労働者の処遇改善が社会的に求められている」と述べています。しかし、今年度の最賃の引き上げでは、なかなか好循環までとはいきません。それどころか、中小企業に十分な支援や補償を行わないばかりか、撤回はしましたが金融機関などに飲食店への働きかけを求めるなど政府の施策は狂気の沙汰です。

せめて、ドイツ並みの全国一律1,200円の最賃を早期に実現してもらいたいものです。それが、拡がっている都市と地域の経済と賃金の格差の是正につながると考えます。

中小企業はどんな存在なのでしょうか?~必要なのは淘汰ではなく支援です!~

「日本は、大企業が少なく、中堅企業よりは小規模事業者が多いので、生産性が低迷する構造にある。」「小さい企業は経営者の質が低いため、生産性が低く、高い賃金が払えなかったり、成長もできない企業が少なくない。こういう企業が増えてしまう結果、国全体の生産性が低下する。」「中小企業は、無駄にたくさんの人を雇うので、現在のような労働生産性の向上を求められる時代では、特に小規模事業者は邪魔な存在でしかない。」

こうした発言をしているのは、政府の成長戦略会議のメンバーのデービット・アトキンソン氏です。氏は、米国金融大手ゴールドマン・サックスを経て、小西美術工藝社の社長です。菅総理の肝いりでこのメンバーに入りました。

 氏の発言は日本の中小企業がとりわけ多いとの認識ですが、それは違います。EU28カ国では、中小企業は企業数の99.8%、従業員総数の66.6%、付加価値額の56.4%を占めています。わが国もそれに類似し、企業数の99.7%、従業者総数の68.8%、付加価値額の52.9%を中小企業が占めています。(中小企業家しんぶん20201215日号参照)このように中小企業は、言うまでもなく日本経済の根幹であり、経済や暮らしを支え牽引する存在です。氏は、意図的に数字をすり替えています。

 政府の中小企業憲章の基本理念には、「中小企業は、経済やくらしを支え、牽引する」「創意工夫を凝らし、技術を磨き、雇用の大部分を支え、くらしに潤いを与える」「意思決定の素早さや行動力、個性豊かな得意分野や多種多様な可能性を持つ」「経営者は、企業家精神に溢れ、自らの才覚で事業を営みながら、家族のみならず従業員を守る責任を果たす」「中小企業は、経営者と従業員が一体感を発揮し、一人ひとりの努力が目に見える形で成果に結びつき易い場である」「中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な役割を果たす」「小規模企業の多くは家族経営形態を採り、地域社会の安定をもたらす」の7つの役割を掲げ、中小企業なくして日本経済は成り立たないことを高らかに宣言しています。

 氏が持ち出している労働生産性は「労働者1人当たりどれだけの付加価値を生み出したかの平均値」です。もうけが大きく価格競争力もある大企業は当然高く、大企業に比べ不利な条件の中で営業を強いられている中小企業は相対的に低くなります。優遇税制など大企業に手厚く、中小企業に冷たい経済政策こそ改めるべきです。

 中小企業家同友会全国協議会では、政府が閣議決定している中小企業憲章について次のような政策要望をしています。①中小企業憲章を国民の総意とするため、国会決議をめざす。②中小企業を軸とした経済政策の戦略立案などを進めるため、首相直属の省庁横断的機能を発揮する会議体を設置する。③中小企業担当大臣を設置する。④中小企業庁の中小企業省への昇格。⑤「中小企業の日」「中小企業魅力発信月間」を盛り上げ周知する、です。

 中小企業や国民は中小企業の淘汰を望んでいません。政府は中小企業と国民の置かれた状況を正面から認識すべきです。今求められていることは、「淘汰」ではなく「支援」です。

防衛費を減らしてコロナ対策に~「不要不急な予算をすべてコロナ対応に」を国民的世論に~

5月19日岸信夫防衛相は、日本経済新聞のインタビューで「従来と抜本的に異なる速度で防衛力を強化しないといけない」「GDPとの対比で考えることはない。わが国を守るために必要な経費をしっかり手当てする」と強調しました。加藤勝信官房長官も翌日の記者会見で、防衛費について「GDP比1%枠内に抑えるという考えは取っていない」と述べ、過去最大を更新し続けている支出増を推進する立場です。

 防衛費をめぐっては、1976年に三木内閣が「国民総生産(GNP)比1%を超えない」ことを閣議決定しました。90年代以降は、リーマンショックでGDPが大幅に落ち込み1%を超えた2010年を除き1%未満で推移しています。これについては米国政府が「少なすぎる」と繰り返し不満を表明しています。

 自民党政務調査会は、「(防衛力強化の)手を緩めることは許されない」と強調し、NATO(北大西洋条約機構)諸国がGDPの2%以上の軍事費支出を目標としていることに触れ「防衛関係費を抜本的に増額」するように求めています。政府は618日に閣議決定した「経済財政運営と改革の方針2021」(いわゆる骨太の方針)に「必要な防衛力を大幅に強化し他自弁統合防衛力を構築する」と明記しました。

 防衛費といえば、不要不急な支出のオンパレードです。昨年6月に配備を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代えて、政府が整備を決めた代替艦「イージス・システム搭載艦」2隻の総コストが、少なくとも9,000億円かかることが判明しました。

24時間365日、日本全体をカバーできる」との触れ込みだった「イージス・アショア」に比べ、導入効果が3分の1になるにもかかわらず、コストは少なくとも2倍になります。この金額は最終的には1兆円を優に超えるとの見方もあります。これは東京五輪、パラリンピックの当初想定経費7,340億円を遙かに上回ります。 

 また、政府が公表した辺野古移設の総費用は、予定海域での軟弱地盤が見つかったために、従来の2.7倍の9,300億円に膨らんでいます。10年前に運用された米軍岩国基地の新滑走路は、埋め立て面積は辺野古の1.3倍ですが、総工事費は2,560億円で3割弱です。警備費だけで2,000億円かかるこの滑走路建設に、識者からの異論も続出しています。

 日本の防衛・外交のあり方は抜本的に見直すべきです。軍事史に詳しい纐纈(こうけつ)厚・山口大学元副学長・明治大学客員研究員は、「『米中対立』のなか、どちらにつくということではなく、覇権主義全体を批判する視点が必要です。」と指摘し、「あらゆる軍事同盟の呪縛、縛りを解き放ち、米国とも中国ともロシアとも対等・平等につきあう、全方位的な外交が必要だ」と訴えられています。

 ローマ教皇は「武器は、もっと重要な優先事項に使うべき」とりわけ「新型コロナウィルスと地球温暖化対策」への切り替えを訴えています。「私たちはみんな、同じ船に乗っている」のだから、すべての人が医療やワクチン接種を受けられるようにと。防衛費のあり方を抜本的に見直して「不要不急な支出を減らして、コロナ対策に」を国民の世論にしましょう。