この映画は韓国の国民的詩人である尹東柱(ユン・ドンジュ、1917~45年)の生誕100年を記念して作られた映画で、主人公を演ずるカン・ハヌルは、韓国のトップスターのひとりです。モノクロの美しい映画です。私は、この映画「空と風と星の詩人」を見るまで彼のことを全く知りませんでした。
彼は日本の大学(最初立教大学、後に同志社大学)に留学中に、1943年7月、抗日独立運動を扇動したとして京都で逮捕され、治安維持法違反で検挙されて、懲役2年の刑を受け、日本の敗戦のわずか6か月前である1945年2月16日に27歳の若さで、福岡刑務所で獄死しました。彼は、韓国では国民的詩人として知られています。死後に刊行された詩集「空と風と星と詩」が韓国で広く読まれるようになり、日本語や英語などにも翻訳されています。
満州(現中国東北部)で生まれた彼は、1942年10月から同志社大学文学部で学び、ハングルでの詩作を続けていました。戦後80年となるのに合わせ、「多くの学生が戦争の犠牲になったことを忘れてはならない」として同大学は名誉文化学位贈呈を決めました。
さて、彼の命を奪った「治安維持法」は、一見「治安を守るための法律」かのようですが、実際は民主主義や宗教、学問の自由を弾圧するとんでもない悪法でした。「民主主義」や「自由」は天皇主権に反するからだという理由から制定されました。その弾圧後に国内で310万人、アジアで2,000万人もの犠牲を強いた戦争の惨禍をもたらしました。
1925年施行の治安維持法は、太平洋戦争の敗戦後の1945年10月に廃止されるまで、弾圧法として猛威をふるいました。弾圧が原因で命を落とした人(氏名判明分)が514人、検挙者68,274人、起訴者6,550人、検束・拘留者数十万人とされています。有名なプロレタリア作家の小林多喜二氏もその犠牲者の一人でした。
戦後、世界各国で弾圧や人権侵害の犠牲者に対する謝罪と賠償が進んでいるなかで、残念ながら日本では、いまだになされていません。それどころか、驚くかな2017年6月、金田勝年法務大臣(当時)は、「治安維持法は適法に制定され、適法に執行された、謝罪・賠償・調査の必要もない」(要旨)と、治安維持法を擁護し、突っぱねました。
政府は最近、特定秘密保護法、共謀罪法、土地利用規制法、経済秘密保護法等々を矢継ぎ早に強行し、罰則付きで国民の目と耳と口を塞ぎ、さらには、今年3月には能動的サイバー防御法案を提案し、権力の邪魔になる日本学術会議の解体まで行なおうとしています。
他の予算が据え置かれ、あるいは削られるなか、防衛費をGDP比2%にするために8兆円の予算を組みました。それだけでなく米国は3%にする要求をしています。「新しい戦前」が着々と「新しい戦中」へと近づいています。治安維持法施行100年、再び暗黒政治を生まないために、歴史の真実を学び、同じ過ちを繰り返させないよう、一人ひとりが大きく声をあげなければなりません。それこそが、尹東柱氏や小林多喜二氏に報いることではないでしょうか。戦争と暗黒政治を許さない政治を実現しましょう。