税理士的行動心理学へのアプローチ(前編)~クレームの本質と私の実践~

(1) はじめに

最近時の人となった藤井聡京都大学大学院教授は2018年まで7年間内閣官房参与の要職(防災・減災ニューディール担当)に就かれていました。

一方、経済学も研究分野で2018年11月10日に「10%消費税」が日本経済を破壊する~今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を~という書籍を出されました。その主な主張は①速やかに消費税の増税の「凍結」を決定する、②凍結された増税で増えることが見込まれていた税収の代替財源のために、当面は、躊躇なく国債を発行する、③経済成長を目指し、それを通じて、「税収を拡大」して、それを、「消費税の代替財源」としていく(そうすることで早晩、増税するよりもさらに大きく成長し、むしろ「おつり」がかえっている)。④同時に、様々な「税と国民負担」のあり方を見直し、「消費税」に代わる様々な税項目について論議を深め、経済活性化、適正な投資の促進、株式市場の安定化、適正な土地利用の促進等の「公益の増進」を促していく、というものです。その要因はデフレ状況下で消費税を増税すれば「デフレスパイラル」に陥り、日本が「衰退先進国」になるという警鐘を鳴らされています。

その藤井聡教授は、「行動心理学」という学問もその研究テーマだそうです。「行動心理学」とは、例えば「Tax Sallience(税の顕著性)」では、消費税が10%になれば19,800円の商品には1,980円の消費税がかかることが誰にも分かり、特にいつも買い物をされる女性が買い控えをするという実証研究をするものがその学問領域だそうです。

私は藤井先生のような学者でもありませし、経済の専門家でもありません。しかし、実社会の現場の中で皮膚感覚として「行動心理」を見てきた税理士です。そうした経験則などを3回に分けて紹介をします。

(2) クレームは誤訳です

日本では、商品やサービスへの不満をその提供者側に伝えることを一般的には「クレーム」といいます。しかしクレーム「claim」を英語の辞書を引くと、動詞として「主張する」「要求する」、名詞として「主張」「要求」となっています。この誤訳された「カタカナ英語」を正確な英語で表現すると動詞としてはコンプレイン「complain(不平を言う)」同じく名詞で表現するとコンプレイント「complaint(不平)(不満)(苦情)」になりますが、なぜそうなったかわかりません。

間違った「カタカナ英語」は他にもたくさんあります。広島カープファンである私は、マツダスタジアムで「ナイター」観戦をしたいのですがなかなかチケットが取れません。この「ナイター」も間違った「カタカナ英語」です。正しくは「night game」ですが、おそらく運動選手が「play(運動をする)」に「er」をつけて「player(運動選手)」になることに合わせて、「night(夜)」に「er」をつけて「nighter(ナイター)」という誤訳につながったのだと思います。

他にも身近な「カタカナ英語」があります。それは「ホッチキス」です。英語では「stapler(ステイプラ)」といいます。「ホッチキス」は考案者「Hotchkiss」の名による商標です。

(3) クレームの本質は何かを学ぶ

クレームの本質を学ぶには「グッドマンの法則」というものがあります。その法則は大手経営コンサルト会社に所属するジョン・グッドマン氏の調査や理論を顧客ロイヤリティ協会の設立者の佐藤知恭氏が命名し普及させているものです。

その法則から私たちは学ぶことが必要だと考えています。それは3つの法則で構成されています。

第1の法則…クレームをいだいた顧客のうち、実際にクレームを申し立て、そのクレームに対しての解決に満足した顧客のリピーター率は圧倒的に高い。また、不満を持っていてもクレームを申し立てる顧客は10%にも満たない。換言すれば、圧倒的な顧客が何も言わずに去ってしまう。

第2の法則…クレームを抱いてもそれを申し立ていない顧客や実際にクレームを申し立ててもその対応のまずさで不満を持った顧客の悪い噂は、クレームを申し立て満足した顧客の良い噂は前者に比較して、2倍も強く影響を与える。

第3の法則…企業の行う消費者に対してのアピールによって、その企業に対する消費者の好感度が高まり、良い噂が期待されるばかりか、その商品を購入する確率が高まることだけでなく、ひいては自社だけでなくその商品の市場拡大に貢献できる。

この法則は、すべての企業にあまねく当てはまるのではないでしょうか。もちろん、私たち税理士事務所にも当てはまります。この法則を学び、実践することがすごく大事です。

(4) 私のクレーム申し立て術

私は「グッドマンの法則」を少しかじったことで、商品に不満があるときはクレームの申し立てをすることにしています。ただし、苦情を申し立てるときには、まず自分の残念な気持ちを率直に伝え、「いつ」「どこで」「どんなことがあったのか」の客観的な事実を淡々と文書にして、現物とともにメーカーに送付するのを原則としています。その必要のないときに限り、お客様相談室の連絡先が書いている企業には電話連絡をしています。

その中で、とても良い対応をして頂き大ファンになった例と、反対にもう2度とそこでは買わないという例をそれぞれひとつずつ紹介します。

まず、よい例からご紹介します。私の趣味のひとつである登山中に起きたアクシデントです。昨年夏、あこがれの北アルプスの雲ノ平へのアタックした時のことです。天気予報通り、かなりひどい風雨に見舞われました。そんな場合はザック(登山用のリュクサックです)が濡れないようにカバーをかけます。そのカバー(ザックカバーといいます)が破損してザックの中身が大事な財布のお札までずぶ濡れになりました。因みに、登山仲間には、ザックの内部にもビニール袋で防水処理をしている人もいます。私は、「めんどくささ」と「通風が悪くなるのではないか」と思いそんな処理をしていませんでした。

帰宅後すぐにそのメーカーに現物と手紙をつけて送付しました。メーカーに現物が到着するとすぐに「カスタマー・サービス」という部署から早急に原因究明をする旨のメールが届きました。これまたすぐに、その原因が経年劣化によるものとわかりました。そのメーカーでは商品の品番を毎年変え、いつ製造したかをわかるようにしているそうです。なんと15年近く前に製造された商品でした。アウトドア用品は使用しないときに収納袋にずっと入れていたとしたら経年劣化が早く進むので、使用しないときは中身を出して風通しの良いところに保管するのが良いとのアドバイスと、不具合があったところは無償で修理する旨が書かれてありました。

私はそのメーカーの新品を購入することを決め、修理を断るとともに、収納袋に入れていて床下収納庫で保管をしていたものをすべて出してクローゼットに移動させました。

その後現物がメーカーから送付されてきましたが、丁重なお詫びとより良い製品づくりに向けて弊社一同尽力して参る旨が書かれている手紙が添付されていました。

そのメーカーは1975年に社長と2人の山仲間と共に大阪で設立した会社で、機能・軽量・迅速をコンセプトに商品開発をして、現在では約千人の社員を擁するまでに成長しています。アウトドア用品を購入する人々の中で一目置かれています。私もさっそくこのメーカーの製品を購入するとともに、その対応の良さを山仲間に宣伝しています。

悪い例は、私の連れ合いは彼女の個性なのかクレームの申立てはしません。実は、彼女がある「道の駅」で購入したジャムの蓋が空かないのです。ネットでそうした場合の対処方法を調べてやってみても空きませんでした。そこで、私にそのお鉢が回ってきました。私もこれまで経験したやり方で、開けようと試みましたが、どうしても空きませんでした。

そこで、現品を駅長あてに宅急便の着払いで送付しました。私が購入したものではないので、彼女に聞き取りをしましたが、いつ買った物なのか、はっきりしないので手紙の添付ができず、「蓋が空かない」旨と私の連絡先をメモとして入れました。

ところが、待てども暮らせども何の連絡がありませんでした。そこで、私のほうから連絡をすると現品は製造した農家に渡してあるが、まだ連絡がない旨の話でした。それと駅長は名ばかりで、そうしたクレームの責任は売り場にあるとのことでした。私は、例え名ばかりであっても最終責任者はあなたにあると伝え電話を切りました。

しばらくして現品が着払い(807円)で送られてきました。その中には現品だけでした。その後、駅長から「私がやったら問題なく蓋は空きましたよ」との連絡がありました。こちらのクレームに何の答えもありませんでした。今後もこんな対応をしていたらと思うと、この「道の駅」の将来性が心配になりました。

彼女にその顛末を話すと、2度とあの「道の駅」で買い物をしない、とかなりの憤慨ぶりでした。今までの「ファン」から一転しました。

この2つの事例からすべての企業(大も小にかかわらず)が「グッドマンの法則」をもっと学び、実践しなければならないといけないと思います。